戦国無双

□黄金色の花
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―――風魔小太郎という男は、むやみやたらと花を愛でる。


愛しそうに花弁に触れて、壊れぬように優しく花を撫でて、そっと香りを楽しんでいる姿を影から見ていた半蔵はそう思った。
その優しさを十分の一でも人間に向けてやったらどうだと言いたくもなるがぐっと堪え、風魔と同じ空間に存在しているという苦痛に耐えてひたすら控える俺を誰か褒めてくれてもいいのではなかろうか。
深窓の姫君ならまだしも、化け物じみた見目の風魔がいろとりどりの花々に囲まれながら、にたにた上機嫌に笑っているのを見なければならない半蔵は、凄まじい勢いで堪忍袋の緒が削り取られていくのを自覚していた。

それくらい、花に触れるその手つきは人間に対するそれよりも遥かに優しい。
もしや、風魔小太郎という男の中では花が人間よりも上等なものだと認識でもしているのではなかろうかと、不審を覚えたことも度々ある。
―――それを知ってか知らぬでか、以前風魔自身が勝手に語り出した言によると―――

風魔小太郎によれば、人間も花もそうさして変わらぬように見えるという。
切られてしまった花は、人間の死体に。
人間の肉塊が飛び散る様や血飛沫も、花が咲くように見えるという。

奴からすれば、人の死も、憎しみも、醜いあらゆるものも、虹を眺めるのも、子犬と戯れるのも、幸せと呼べる全てのものも、同義となるのだ。

気味の悪い、否、おぞましい感性であった。

奴は混沌の花も、平和の花も同様に愛でる。
なんとおぞましい事だろうか。
一つの花に飽きたら、次の花を見るのと同じ手軽さで、混沌を巻き起こし、争乱を鎮圧して平和をもたらすのだ。

その話を聞いた時期は夏だったというのに、肌寒くなったことは、今でもよく覚えている。

少しばかり不安になったので。

長年顔を付き合わせている我等も花に見えるのか、と問うたことがある。



(滅多に己からは話し掛けはしないので、少し驚いたようにしていた)



その問いの答えはこうであった。
見知らぬ者、初対面の者であれば、単なる散らしてみたい花にしか見えぬらしいが、何度も会話をし、顔を覚えるうちに、風魔の頭の中で何らかの認識変換が行われるらしく、最終的には『人間』として認識できるようになるらしい。
……つまり、風魔に『人間』として見られるには、それまでに、殺されてしまわないだけの強さを兼ね備えてなければならないのだ。
なんというか、色々と、頭がおかしいんじゃないかと思う。
以前から奴は頭がおかしいとは知っていたが、それ以上に頭がおかしいとは思わなかった。奴との会話はもはや成り立たないものだと認識した。

「だが、半蔵。うぬは最初から人に見えたぞ」

最後に付け加えるようにそう言ってきたが、当然ながら黙殺した。



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