一次創作短編
□不可思議なモノ
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それは奇妙だった。
まず、奇妙で、次に奇妙で、最後に奇妙であった。
血管のような赤い模様が一面に広がった服を着ている事、闇色の帽子を深く被り、口許しか見えない事も、その理由の一つであった。
それに、それはあまりにも単純だった。
辛うじて人間の形を保ってはいたが、やはりあまりにも単純だった。
男なのか女なのか、子供なのか老人なのかその見分けすらもつかない。
まるで幼児が急いで適当に作った泥人形のようであった。
否、泥人形としても、それは酷い有様であった。
だが、そんなものより更に、それの奇妙さを裏付けているものがあった。
決定的なものがあった。
絶対的なものがあった。
致命的な、ものがあった。
それは、口だ。
常人ではあり得ないほどに大きく、ぽっかりと開かれたそこからは、闇色の帽子よりもずっと深く、重く塗り固められた、絶望すら無い、ただただひたすらに虚無だけが覗いていた。
そこから煙のような、糸のような、魂のような、説明し難い何かが絶え間なく吐き出されている。
その吐き出された真っ黒な何かは、よく見ればヒトの形をしていた。
その何かは実体がないはずであるのに、片目を持ち裂けた口を持っていた。
次々と姿が変わり、風に掻き乱されるような不安定なものであったが、明らかにヒトの形をしていた。
そしてそれは、それを吐き出しているものよりもずっとヒトに近かった。
(ああ、そうか。恐らくこの煙のようなもの自体がその生き物の本体なのだろう)
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