戦国無双
□桜の花は散る
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桜が咲き誇り、そして次の瞬間には死にゆく季節が訪れてきた。
春らしい陽気さに、誘われ、美しい鳴き声で囀る小鳥たち。
冷たい雪が溶け、大地から緑が生まれ落ちていく。
暖かく、心地のよい日だまり。
それら全ては美しい。
それらは、正に生まれたばかりの世界だ。
薄桃色で覆われた世界の真ん中には赤い鎧を纏った、まだ幼さの残る若々しい青年が、三つ又の槍を携えて穏やかに微笑んでいる。
―――真田幸村。
まるで花のような男だ、と風魔小太郎は思う。
その場にいるだけで、何者をも惹きつける、生まれながらの華を持つ男。
人には在らざるはずの忍びの内側にまで、心を芽生えさせるような、春のような男。
風が吹き、桜の花びらが舞い散る。
花吹雪の中に立つ真田は、親しみやすい笑顔を浮かべながら、桜の花を見つめている。
回りの景色に、あまりにも自然に溶け込んでいて、
目を離した途端にこの世からいなくなってしまいそうで、視線を逸らすことが出来ない。
長く、注がれる視線に、さすがに気づいたらしい真田は振り向いた。
「……風魔どの」
にこり、と微笑む真田は、やはり花のようだ。
「心変わりは、もうないというのだな」
「ええ」
「…負け戦と知って、なお赴くか」
「ええ」
にこにこと微笑みながら、迷いなく答える真田に、風魔はひっそりと溜め息をついた。
関白・豊臣秀吉が老いによって死去し、その彼が残した遺言を無視し、
古狸・徳川家康が天下を掌握しつつあるこの時勢。
美青年、石田三成が豊臣秀吉の遺志を継いで立ち上がり、家康と対峙しようとしてはいるが、
しかし、誰の目にも明らかに、石田三成は不利であった。
彼が無能というわけではない。
ただ―――人望がないのだ。
叶うはずのない理想を掲げて、数少ない病持ちの友に忠告されてなお、突き進もうとする愚かな青年。
そして真田は―――真田も、石田三成側に付こうとしている。
叶うはずがないというのに。
こやつだけは違うと思ってはいたが―――ただの愚か者の一人でしかなかったということか。
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