人形遊び
□doll4
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葵を任された骸は、一日目にして困っていた。
「どうしたらいいんですかこの子は……」
手を引いて部屋に戻った骸と葵はまだ手を繋いでいた。
部屋に着き、もういいだろうと骸が手を離すとあの捨てられた子犬のような目で見上げてきて、それに耐えられず手を繋いだままでいた。
なにもできずにベッドに腰掛けているうちにすっかり暗くなってしまい、電気を点けようと立ち上がるとくい、と引かれた手。それはどこに行くの、と不安げな顔をした葵で、骸は困ったように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。暗くなってきましたから電気を点けようとしただけです。すぐそこの、デスクの上にあるリモコンを取るだけですよ」
表情こそ変わらないが作り物のガラスのはずの目が安心したように柔らかくなったような気がした。
どうしたものか、と溜め息を吐きたくなる。
手探り状態の状況に骸は内心やきもきしていた。一々表情を見て目を見て、まるで子供を育てているような――そこまで考えて、骸は気付いた。
葵は生きている人形、育てれば人間になる不思議な人形。
そこには意思も感情もなくて、今はただの人形のよう。――それは、まだ成長していないから?赤ん坊から始まるとすれば泣きじゃくり何にでも興味を持ち好奇心で構成されているだろう。けれど始まりが人形だとすると、何に対しても無反応なのも頷ける。――じゃあ手を離した時の反応は、成長したということ?
骸はベッドに座る葵を振り返った。
きょとん、と不思議そうにしている葵が先程とは違う表情をしていて、ちゃんと見れば表情が読めるくらいになっていた。
ほんの短時間でこれだけ成長するとは、と骸は舌を巻いた。子供の成長は早いと聞くがこれほどとは思わなかった。
「――いいえ、なんでもありませんよ」
平静を装いにこりと笑いながら手に取ったリモコンで電気を点けた。
明るくなった部屋で改めて葵を見ると、冷たく無機質だった雰囲気が少し柔らかくなっているような気がした。――成長している、骸はそう感じた。
表情を読み取るくらいに骸もまた、葵によって成長していた。子供と同じ空間にいることも耐えられなかった骸が自分の部屋に入れて手を繋いでいるなんて、想像もつかないこと。
リボーンの思惑は外れていなかったらしい。