□性急愛
4ページ/6ページ

 悪びれもなく、笑顔で首を傾げて答える春水に、七緒は口を開けて呆然と見つめる。
「…それだけ…?」
「うん」
 あっさり頷く春水に、七緒の表情はみるみる険しくなる。
「…そういうのを何て言うかご存じですか?」
「え?」
「それは、セクハラとか痴漢と言うんです!!」
 真っ赤になって春水を睨みつけて、分厚い本を片手で握りしめて持ち上げる。
「わ、七緒ちゃん、待って、あのね…」
「最低っ!!」
 涙すら滲ませて本を振り上げた七緒の腕を、春水は掴んだ。

 何時もなら七緒に殴らせる。

 だが、今日は殴られたくないと思ったのだ。
 七緒の怒った表情を消して、涙を拭いたい衝動に駆られる。

 だから、腕を掴み、そのまま首を傾けて唇を奪い、本を取り上げて、眼鏡の端から親指を滑らせて涙を拭った。
「んふ…んん…」
「七緒ちゃん…ご免よ…軽く返しちゃダメだったね…」
 抱きしめて真剣な声で囁く。

「欲情しちゃったのは、本当だ…。だって、今日の七緒ちゃん、何だかすごく綺麗だったから」
「…すん…何時もと変わりません」
「…うん…何時も、綺麗で可愛いよ…。ちゃんと準備を踏んで誘うべきだったね…ご免よ、本当に」
 切々と語り真剣に謝る春水に、七緒は首を傾げた。

「……隊長?」
「…七緒ちゃん…愛してるよ…」
 春水は少し体を離して、七緒の頬を指の背で撫でながら真剣な眼差しを向ける。
「…そんな言葉に惑わされません…」
「だって、本当なんだもん…。愛しくて愛しくて、たまんなくって…一気に吹き出ちゃった感じ?」
「……最近…、触れあっていませんでしたものね…」
 七緒は大きく溜息を吐き出して認めた。
「…ああ!そっか、そう言えば…久しぶりだった?」
「気づいていなかったのですか?」
 春水は驚き目を丸くして覗き込み、七緒は呆れた表情で見上げた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ