□干し柿
1ページ/3ページ


「ん〜、もうすぐ食べ頃やねぇ…」

 ギンは細い目を益々細め、嬉しそうに、軒下に吊された干し柿を揉んでいた。


 渋柿の皮を剥き、軒下の雨の当たらぬ日当たりがよく、風通しの良い場所に吊して干す。
 乾燥させる間に、揉むとより甘く美味しくなるのだ。
 ギンは丁寧に一つ一つ揉み、干し柿が完成する日を待つ。


 だが、ただ待つだけではいけないのだ。

 ギンの干し柿作りには強敵がいた。

「そろそろ、夜番をつけんとあかんね」
 ギンは呟き、イヅルに早速夜番を命じようと決めた。


「…お早う、イヅル。どやった?」
「…お早うございます…市丸隊長…異常なしです…」
 イヅルは徹夜でしょぼつく目をこすりながら、返す。
「よしよし。問題はこれからやね。えーよ、休んどき」
「はい…失礼します」
 イヅルは言い返す気力は全くなく、あっさりと引き下がり眠る為に自室へと戻った。
 ギンは縁側に座り、空を眺めた。
「あ〜ええ天気や…」

 昼食も持参したお握りと漬け物とお茶で済ませ、ぼんやりとその時を待つ。



「ギーンちゃん!」
「お、来よったな」
「えへへ〜」
 やちるが塀の上から顔を見せて、ギンに声を掛ける。
 ギンは笑顔で頷く。

「食べていーい?」
「あかん」
「えー、一杯あるのにぃ」
「あかん。まだや」
「食べれるよー」
「まだまだ、食べられへん」
 二人は笑顔で牽制しあった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ