□乙女心
2ページ/6ページ

 やちるの誕生日を忘れていたことは確かに悪いと思うが、だが、それを償おうにも本人がいなくては話にならない。

「…ふん、知るか」
 剣八は背を向けて隊舎に戻った。


 だが、やちるは夕方になっても帰って来なかった。


「やちるー、いい加減帰ったら?」
 乱菊が促す。
「そうですよ、会長。意地をはらずに…」
 七緒も乱菊に賛同する。
「いーの。今日は皆においわいしてもらうから!」
 やちるは女性死神協会の理事を召集し、白哉の屋敷で皆に祝って貰っていた。
 山ほどに積み上げられていたお菓子は今は殆どやちるの腹の中だ。
 可愛い小物やおもちゃなどは包装紙が破かれて散乱している。

 皆に祝って貰って少しは気が晴れたが、やはり剣八から離れているのは寂しい。
 でも、やちるにも意地がある。
 今日は日付が変わるまでは帰らないと決めていた。
 お菓子を手に取って口の中へと押し込む。


 その時だった。
「こんな所にいたのかよ…」
「剣ちゃん!?」
 秘密の扉が開き剣八が立っていた。
 すぐ隣には白哉も居る。
「びゃっくん?」
「…我が屋敷なのだがな…」
 もう何を言っても無駄なのかと、改造された室内を見渡し入ってくる。
「…ルキアと私からだ」
 白哉がやちるの側に大きな包みを置く。
 ルキアの頼みに断り切れず一緒にやちるの誕生日の贈り物を選んだのだ。
「びゃっくん、ありがとー!ルッキーにもありがとーって言ってね」
「ああ…」
 微かに頷き、白哉が場所を移動する。剣八の為に。
「……やちる」
「何よ」
「帰るぞ」
「…いや!」
 頬を膨らませてそっぽを向くやちるに、剣八は大きな溜息を吐き出した。
「そうか、勝手にしろ」

 女性陣はもう諦めてしまうのかと、剣八を鋭く睨みつけ、心配そうにやちるを見、白哉はただ黙って成り行きを見守っている。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ