□乙女心
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「剣ちゃん!!」
「ん〜?」
「おきて!おきて!」
 やちるが激しく剣八を揺さぶる。
「ああ…」
「みてみて」
「んー?」
 昼寝をしていた所を起こされて剣八は伸びをし、大きな欠伸をしてからやちるを見下ろす。
「……どうしたんだ?」
「着物をみて!」
 やちるが怒って剣八を促す。
 やちるは両手を広げて着物を見せるように胸を反らして立っている。
「…ああ…どうしたんだ、それ…」
「協会の皆がくれたの!」
「あ?」
 寝起きもあって剣八には中々伝わらない。
 やちるは悲しげな表情になって、うつむいた。
「今日、あたしのたんじょうびなの。皆がプレゼントにくれたの」
「…ああそういうことか…」
 言い終えてから、やちるの言いたい事にようやく気が付いた。
「あ、やちる…」
「もういい!!」
 やちるは拗ねて後ろを向き、部屋を取びだした。

「ち…ったく、女は面倒でいけねぇ…」
 小さくてもいっぱしの女なのだ。
 やちるの誕生日を忘れて、昼寝をしていた剣八は責められて当然だ。
 だが、いつもなら朝一番に起こしてねだりにくるのに、今回は起こす事をしなかった。
 昼過ぎてようやく行動を起こしたのだから、珍しい。

 剣八は起き上がり、やちるを探した。

「おーい、やちる」
 呼びかけても、一向に近寄ってくる気配がない。
 何もない背中が寂しい。
「いい加減、機嫌直せよ。甘味処へ連れてってやるから」
 それでも、やちるは姿を現さない。

 剣八は首を傾げながらも、やちるの居場所を探し歩いた。


 だが、何処を探しても見あたらない。
 剣八は途方に暮れた。
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