◇BLEACH
□感謝
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七緒は春水と別れ、商店街を歩く。
店先を覗き小物を見て回る。
色々と手に取ってみたものの、思いのほか春水の色合いのセンスが良く、しっくりとくるものが選べない。
有り合わせで済ませるには勿体無いと、着物と比べるたびに思ってしまう。
店の主も同じ事を思うのか、強いて七緒に進めようとはしなかった。
「これは…やっぱり隊長にお願いした方がいいのかしら…」
自分だけ特別扱いは良くないと思うのに。
それでも、やはり嬉しいとも思う。
戴くばかりでは申し訳ない。
何を贈っていいものか、さっぱり思い浮かばない。
七緒の贈るものなら何でも喜んでくれるのだろうが、それではこの着物に叶わないとも思う。
「どうしよう」
自分の買い物をすっぱりと諦め、今度は春水への贈り物を考え始めた。
一方、七緒に約束を取り付け、いそいそと八番隊の執務室に戻って来た春水。
「やや!京楽隊長!!どうかなされましたか!?」
一人ご機嫌な様子で戻って来た春水に驚く辰房。七緒が休みの日にはろくに仕事をしないというのに、どうしたことか。
「さあ、お仕事お仕事」
「なんと!?」
いちいちオーバーリアクションで驚く辰房に、にっこり笑いかける。
「さあ、今日の分は片付けちゃうよ!どんどん持って来て」
「はっ!」
驚きつつも、深くは追求しない。この上司はのらりくらりとはぐらかす事に長けているのだ。副官の七緒でさえ手を焼くのに、辰房が追求しても無駄というものである。
それよりも、今は命令に従う事こそが最善である。書類を次々に春水に渡していく。
春水が書類と格闘しているころ、七緒は見慣れぬ場所に辿り着いた。ぼんやりと考え事をしながら歩いていたため、眩暈でも起したのかと、錯覚した。
眼前に広がる赤、紅、朱。
一瞬、あの着物を思い起こした。
それも、思い出したのは何故か、受け取った時の事でなく、春水の背にあった時。
舞い散る紅葉をしばし眺めていた。