□独り占め
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 はしゃぎながらお弁当を食べ終え、お茶を飲み一息吐いて、冬獅郎は気が付いた。


「ん?この花だけ形違うな」
 冬獅郎の指摘に、桃が覗き込み確認する。
「あ、これは桜草だよ」
「これも桜なのか」
「そうだね!」
「へえ…」
 芝桜より頭一つ飛び出ている桜草。
 冬獅郎は不意に、その桜草を指に絡め、一本ちぎり桃へ差し出した。
「え?何?」
「やる」
「…ありがとう!」
 自分でも何故、こんな行動に出たのか解らなかったが、桃の笑顔を見、この為だったのだと納得した。



 だが、後日、冬獅郎は猛烈に後悔することとなる。

「…これでいいか?」
「……はいっ、確かに。ありがとうございます」
 書類の受け渡しに、十番隊へ桃が訪れていた。書類を捲りながら、桃が確認する。
「落ちたわよ」
 書類確認の際に、桃が何かを落とし、乱菊が拾い上げた。
「ありがとうございます、乱菊さん」
「可愛い栞ね。手作り?」
「ええっ!この間日番谷君に貰って。嬉しくて記念に押し花に」
「まぁ!隊長ったら、随分小意気なことを!」
 乱菊の瞳が輝き、楽しそうに冬獅郎を見る。
「なっ!雛森!捨てたんじゃねぇのかよっ」
「そんなことしないよ!日番谷君に貰ったのに」
 桃の言葉は嬉しいのだが、乱菊にからかわれる事は堪え難い。冬獅郎は真っ赤になり、立ち上がり桃の手から栞を奪い取ろうとする。
「やだっ、何するの!」
「捨てろよっ!」
「やだっ!シロちゃんがくれたのにっ!捨てない」
 じゃれ合う二人を乱菊は微笑ましく見つめ、声を掛ける。
「ごゆっくり〜」
 手を振り部屋を抜ける乱菊に、冬獅郎は眉を吊り上げる。
「松本!何処行きやがる!まだ仕事中だぞっ!」
「じゃ、あたしも…」
「あ!雛森っ!それは捨てろ!」
 桃が隙を見て逃げ出そうとするが、冬獅郎はせめて桃は逃がすまいと必死である。


「シロちゃんしつこい〜!」
「日番谷隊長だ!」



 結局、桃を力付くで押さえることのできない冬獅郎が折れ、桃は押し花を死守できたのでした。


えんど。
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