□慣れ
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「お世辞は結構です」
「お世辞!?」
 七緒の言葉に、春水は心底驚く。何をどうしたらそんな解釈になるのか。
「ちょっと待った!お世辞だなんて心外だ。ボクは真剣に言ってるのに」
「…煽てて、宥めて、サボりの口実を探しているようにしか、聞こえません」
「違う!断じて違うぞ!」
 書類の束に手を伸ばし、春水を一瞥すらせず冷たさを含む声で言われ、春水は机に手を付き立ち上がると、大股で歩み寄り、七緒の机へ手を付き、身を乗り出した。
「……手を退けてください」
 春水の置いた手は、今正に七緒が取ろうとした書類の束の上にあった。
「七緒ちゃん」
「……解りました。お褒めのお言葉を素直に受け取ります」
 溜息を吐き、半ば投げ遣りに気持ちの籠もらぬ礼をする。
「七緒ちゃん!」
「…美人じゃありませんからっ」
「何処が!?」
「……何処って…」
 七緒は春水から視線を逸らし俯いてしまう。
「ボクは七緒ちゃんを美人で可愛いと、心底思ってるよ?何で信じてくれないの?恋人の言葉だよ?」
「……だって…」
「だって?」
「………そんな事言われるの…隊長だけですから…」
「ボクが言ってるだけじゃ、信用に値しない?」
「……だって…目付ききついし…」
「は?涼しげじゃないか。多少きつくなるのは目が悪いからでしょ?眼鏡外せば、うるうるして綺麗だし、可愛いのに」
「唇も薄いし…」
「薄くて綺麗だよ。薄い色の紅も良く似合うし、いいじゃないか」
 七緒が一つ述べれば、倍以上理由を並べ、如何に七緒が美人かを蕩々と訴える春水に、七緒は泣きだしそうな表情で春水を見上げる。
「…だって、今まで可愛くないって……振られたんですもの…」
「それはそいつらに、見る目がないだけだ!振る理由を自分の所為にしたくなくて、七緒ちゃんの所為に無理矢理してただけだっ!そんな男の言葉なんか信じるな!」
 言葉を荒げ憤慨する春水を、七緒は珍しいものでも見るように、唖然として見ていた。
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