□日常の中で
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 この女性死神は、春水を叱り付ける七緒を見てしまったらしい。上官を叱り付けるとは何事かと感じ、七緒へと直訴したのだ。
「あのねぇ、それは事情があるんだよ?」
「京楽隊長!!」
 春水が何時の間にか七緒の背後に立っていた。
「ボクが締め切り過ぎた書類を貯めていたからね。にも関らずサボってたもんだから、七緒ちゃんが怒ったんだ」
 口元に笑みを浮かべながら、恥ずかしそうに事情を語る春水に、女性は七緒へ申し訳無さそうな視線を送り頭を下げた。
「出すぎた事を申しましてすみません…」
「いえ…」



「…あの時は、セクハラでふざけていた時のように思いましたが」
 女性が二人の前から辞し。七緒がぽつりと呟く。
「もっともらしくていいでしょ?」
「…それは、まあ、セクハラよりは聞こえがいいでしょうけれど」
 肩を竦め笑みを見せる春水に、七緒は苦笑いを浮かべて返す。
「…それでも、ちょっと不本意です」
 七緒は執務室へと向かって歩き出しながらも、呟くように小さな声で不満を漏らす。
「うん?」
「私が隊長の仕事をちゃんと管理できていないように、聞こえます」
「…ははは、ご免よ。七緒ちゃんは副隊長になってから、滅多に締め切り破りはないもんねぇ。有能で助かってます」
 ここで執務室へと到着し、春水が先に戸を開け、七緒を促し執務室へと入る。七緒は自分の席へと着き、手にしていた書類を机上へと並べ、溜息を吐いた。
「…隊長がもっと協力的でしたら、私の負担もかなり減るのですけれどね」
「ああ、そんなこと言わないでっ!七緒ちゃん」
 執務室で二人きりで交される会話だからか、遠慮がない。七緒の言葉も遠慮がなければ、春水の行動も遠慮がない。椅子に座った七緒を椅子越しに背中から抱きついている。
 七緒は懐から扇子を取り出し、これまた遠慮なく春水の手をびしりと叩く。
「ああ、七緒ちゃんつれない」
「セクハラです」
「だってぇ、七緒ちゃんに触りたいんだもん」
「全く…。隊長をちゃんと見ている者もいるのですから、気を付けて下さい」
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