□満たされたい
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 先日、春水に抱きつかれ、七緒はうっかり抱き留めそこねて、転んでしまったのだ。
 ここ数日の暑さと徹夜仕事で、少しばかり夏バテになっていた。
 七緒が弱っていることを知り、春水は仕事をサボる回数を減らし、身体に負担を掛けるようなセクハラを減らしていたのだ。


「…はあ…気遣いは嬉しいけど…まさか、欲求不満になるなんて…」
 我ながら随分変わったものだと染々と感じる。
 以前欲求不満になった時と違い、今回は春水の気配りの分、七緒の気持ちも落ち着いついていて、苛々すると言うよりも、切なくて淋しい感情が溢れていた。その為か随分と素直な気持ちで、春水が欲しいと感じている。
 この切ない気持ちの所為なのか、七緒は今更ながらに、初めての乙女のように困っていた。
 幾度も甘えたこともあり、自分から誘ったことも一度や二度ではないと言うのに。
「…なんて誘ったらいいのかしら…」

 七緒は幾度目かの大きな溜息を吐いた。



「お疲れさま」
「あ、はい。お疲れさまです」
「…七緒ちゃん、今日一日ぼんやりしてたね。大丈夫?明日は休んだ方がいいんじゃないかい?」
 春水は微笑を浮かべ、七緒の体調を気遣う。
「…あ、あの…」
「うん?」
「……あ、あのっ」
「何だい?」
 口籠もる七緒を急き立てる事無く、春水は辛抱強く待った。
「…あ…の…。その…抱いて下さいっ」
「喜んで!」
 勢いで叫ぶように言う七緒を、春水は喜色満面になり抱き締める。
「ち、違いますっ!こういうのじゃなくて…」
 久しぶり春水の逞しい腕に抱かれ、うっとりとしそうになる己を奮い立たせ、七緒は言い募る。
「…ん?こういうのじゃなくて?」
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