□満たされたい
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「え…?」
 戸惑う七緒をそのままに、勢いよく離れると、部屋の窓を全部閉め、七緒の上へ飛び乗り改めて身を沈める。
「あっん!」
「声っ、やっぱり聴きたい」
「…もう…」
 春水の言葉に、七緒は呆れたように見上げるが、頬は染まり口元は綻んでいる。春水の首に腕を絡ませ、体を密着させる。蒸し暑い空気でも、今この一時ばかりは我慢できる。
 春水は七緒へと軽く口付けを送ると、更なる熱を求めて行った。



「…あづ〜」
 事が終わるなり、春水は窓を開け放ち室内に夜風を送り込んだ。
 七緒は満たされたからか、風呂へ入り汗を流し、すっきりとした表情で戻ってきた。白地に紺の萩模様の浴衣は、春水からの贈り物。普段使いしている事に、春水は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「お先にありがとうございます。隊長もいかがですか?」
「うん、お風呂借りるよ」
 春水が風呂へ向かうと、七緒は氷を取出し削っていく。大振りの器に氷の欠片をいれ、涼しげな切子硝子の徳利によく冷えた酒を移し、氷に突っ込む。徳利と揃いの猪口を用意し、部屋へと戻ると、烏の行水で風呂を済ませた春水がいた。
「うわっ、七緒ちゃんいたれりつくせり〜」
 薄く細い縦縞模様に、芒が白抜れた涼しげな浴衣を着崩し、濡れた髪を手拭いで拭いながら、七緒の手元の酒に瞳を輝かせる。
 この頃七緒は誘う側に回ると、何かしら準備をしている事が多い。少しでもゆったりと時間を楽しむ事が、楽しいと気付いたのだ。
 本当に僅かな時間なのだが、それでもこの一時を大切にした。春水もこうした時間を持つ事を好む性質なので、七緒の遇しを嬉しそうに受ける。
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