□満たされたい
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「……隊長」
「…………」
「京楽隊長」
「…………」
「…春水さん…」
「…………」
「……はぁ…。駄目だわ…」

 七緒は大きな溜息を吐くと、手にしていた写真集を文机に置き、その上へと突っ伏した。
「…なんて誘ったらいいのかしら…」

 真面目に夜の誘いをかけようとして、七緒は悩んでいた。
 いざとなれば幾らでも大胆になれる癖に、改めて意識すると照れ臭いことこの上ない。
「…こんな時ばかりは、隊長のさり気なさとか、巧みさが羨ましいわ…」
 己の生真面目な性格が恨めしいのは、こんな時だと思う。
 起き上がり、写真集を捲る。
 七緒は春水の写真を沢山持っている。とは言え、この写真集を発行する際に撮ったもので、厳密に言えば女性死神協会の物で、個人の持ち物ではない。当然のことながら人に表だって見せられるものでなく、堂々と見ることのできる写真は、今手にしている写真集だけだ。
 発行した部数分の人が、この写真集を持っている。七緒一人だけではないのだ。その事実に七緒の胸がちくりと痛む。
 ぱらりと丁寧に頁を捲ると、大きく写された春水の笑顔があった。
 この時カメラを構えていたのは七緒で、春水の瞳は七緒へ向かったもの。一発で採用されてしまった笑顔の写真は、七緒へ向けられた笑顔だったのだ。
「……はぁ…抱かれたい…」
 七緒は大きく溜息を吐き、大胆な事を口にした。
「…ううう…。欲求不満だなんて…最悪…」



 この夏、春水はそっけなかった。七緒と少しだけ距離を取っているのだ。
 隙あらば口説き、セクハラをするが、抱きつく回数は極端に減っていた。
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