□風と風邪
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「………ひゅう…」
 息苦しいと感じて、深呼吸した際喉から漏れた厭な音に眉間に皺が浮き上がる。
「ごほっ、ごほっ」
 案の定咳き込んだ。
 横になるとかえって喉がしまるので、起き上がり深呼吸をする。
 全く忌々しい。


 ふと顔を上げると、鏡が目に入った。何気なく覗いて、眉間に付いた皺を指で撫でる。

 友人の春水は見た目は、十四郎より老けて見えるが、彼の眉間に皺はない。かわりに口端に笑い皺がある。髭で解りにくいが。
 眉間の皺より余程良い。つい、前髪で隠してみる。
 病気で表面に現われるのは、白い髪だけでいい。


 十四郎は大きく息を吐き出し、ゆっくりと息を吸った。
 少し喉の調子が戻って来たらしい。
 体を捻り枕元に置いてある、盆を引き寄せて薬湯を湯飲みに注ぎ、喉を潤した。
 ちびちびと飲み、天井を見上げる。
 

 早く起きたい、壁に掛かった隊長羽織りを着て、指揮がしたい。
 春水とふざけあい、烈と心行くまで供にいたい。
 他の皆が当たり前にしている事が、できない自分が歯痒い。
 好きな人に、好きな時に会いに行けない。
 湯飲みを置き、目蓋をきつく閉じて、腕で目を覆い、窓の外の青空を追い出した。




 眉間に深く皺を刻み目を閉じていると、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 物音で目が覚めた。

「すみません、起こしてしまいましたね」
「…烈?」
 まだ、目蓋が開けきらず声で正体が解るだけだ。
「ああ、もう少しお眠りになっていて下さい」
 烈が十四郎の額に手を置き、熱の有無を確認した時だった。
 十四郎が目を開け、烈の手首を掴んだ。
「冷たいぞ」
「外は春の嵐なんですよ」
 烈の言葉に、窓に首を巡らせるといつの間にか、窓が閉められていた。耳を済ませば、凄まじい風の音と雨の音が聞こえる。それらの音に、あらためて烈を見ると、全身ぐっしょりと濡れている。十四郎は慌てて起き上がり、烈の隊長羽織りを脱がせた。
「早く脱がないと、風邪をひくぞ」
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