□意外な犠骸
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 犠骸に入って、現世でデート。
 何時見ても、鏡に写る自分が、春水が見慣れない。
 足が顕になって、踵の高い靴が歩きにくくて仕方がない。


 だが、今日はそんな気持ちも半減している。
「七緒ちゃん可愛い」
 着替えてきた春水が現われた。
 今日は藤祭りがあり、場所柄着物姿だと割引制度があるとかで、着物姿がちらほら見える。それ故に、二人とも着慣れた着物姿だ。
「待たせちゃったかな?」
「いえ。私も今来たところでした」
「やっぱり七緒ちゃんは、着物が似合うね」
「隊…春水さんも」
 何時もの道化た女物の着物がない分、真面目に見えるくらいだ。
 祭りで着物を着ている者が多いから、二人は目立たなくなる筈なのだが、春水の身長で着物を着慣れていると、別の意味で目立つ。一緒にいる七緒も、着慣れていて、美人だからやはり目立つのだ。
 
 藤棚の下へ辿りつき、二人でしばらく眺めていると、後ろの方から囁き声が聞こえてきた。

「…あ〜…視線が痛い…ねぇ…」
「…はい…」
 苦笑いで顔を見合わせた。
 
 見合った途端に二人の視線が外れなくなった。
 藤も周りの視線も目に入らない。
 春水はじっと七緒を見つめ、七緒は春水の強く柔らかな視線から外せなくなっていた。
 見つめられているだけで、体が熱くなる。無意識に手が左胸辺りをさ迷う。これ以上見つめられていては、立っていられなくなりそうだった。

「七緒ちゃん」
「は、はいっ」
「行こうか?」
「はい…」
 春水がそっと七緒の手を取り促した。

 藤を見に来た筈が、目的が変わってしまったようだ。
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