□わんにゃん物語
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「うへへへ〜、おそっちゃうワン!!」
「にゃー!!」

 八番隊の隊首室で不思議な光景が繰り広げられていた。
 小さな姿に犬耳と尻尾をつけた春水が、同じく小さな姿に猫耳と尻尾をつけた七緒を追いかけ回していたのだ。
 子供同士の追いかけっこ故に、本来微笑ましい光景のはずなのだが、全ては春水の台詞で台無しになっている。
 子供らしからぬ台詞の所為で。


「にゃっ!」
 ついに、にゃにゃ緒が春水に捕まり、そのまま押し倒されてしまった。
「にゃ!!た、たいちょう!!」
「にゃにゃ緒ちゃん、可愛いワン!!」
 瞳をうるうると潤ませて見上げるにゃにゃ緒の愛らしさに、春水は尻尾をぶんぶんと嬉しそうに振り舌でにゃにゃ緒の頬をぺろぺろと舐める。
 光景としては微笑ましい筈のものだ。
 小さな子供がじゃれ合っている。

 ただし、中身は大人で…。

 何故に二人揃って小さくなっているのか。
 それは数刻前に遡る。


「阿近君いつもありがとう〜」
「どういたしまして」
 春水は小躍りして薬を受け取り十二番隊から出て行った。


「副会長…」
「何ですか?」
 女性死神協会の秘密の部屋でネムが七緒へと声を掛けた。
「これを…」
 手渡された物は薬だった。
「これは?」
「…京楽隊長から注文を受けましたので…」
「…まさか、また猫の?」
「はい…、阿近さんが京楽隊長から依頼を受けまして…。それで、阿近さんがこれを副会長にと…」
「……そう、ありがとう。阿近さんによろしくお伝え下さい」
「はい…」
 ネムはただあるがままを伝えたが、七緒にはよく解った。
 つまり、春水が猫の薬を持っていったので、七緒には犬の薬を気を利かせてくれたのだろう。
 無論、十二番隊というかマユリに思惑も当然ある。
 七緒は未完成の頃から薬を服用しているため、秘密裏に実験体になっているのだが、実は春水も同様の対象になっていたのだ。
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