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□抱き締めて
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七緒は大きく息を吐いた。
瀞霊廷は今なお混乱のただ中にある。
気を緩めている時ではないと解っているのだが、それでも夜一人で寝台に横たわっていると苦しくなる。
こんな時、春水に抱かれれば立ち所に不安など夢散するはずだ。
あの逞しい腕に抱かれ、甘く名を呼ばれたい。
七緒は起き上がり、寝巻姿のまま隊首室へ向かった。
「……隊長…起きていらっしゃいますか…?」
「…七緒ちゃん?どうしたんだい?」
小声で問い掛けると、春水が驚いた表情で障子戸を開け、七緒を迎え入れる。
「…申し訳ありません…、お休みの所…」
布団から起き上がった形跡を見、七緒は謝罪する。
「気にしなさんな。それよりどうしたんだい?」
「……あの…」
「うん?」
「…お疲れでなければ………抱いて…いただきたくて…あの、お疲れでしたら、添い寝だけで…」
顔だけでなく、耳も首筋まで真っ赤になりながら、小さな声で用件を言いおわると、七緒は恥ずかしさのあまりに俯き、固く目を閉じた。
「喜んで!」
春水は破顔し、七緒を抱き寄せ布団へ押し倒す。
「幾らでも抱いてあげちゃうっ!」
いつもなら眉を潜めるこの調子に乗った言葉に、七緒は消え入りそうな声で返す。
「……お願い…します…」
「…七緒ちゃん?」
七緒の様子に春水は驚くが、きつく抱き締め、頭を撫でる。それだけで七緒の体から力が抜け、身を任せてくる。
「…もっと…呼んでください…」
同じ立場の者達が傷ついている。信頼し、敬愛し、畏怖していた上司に欺かれていたのだ。
将来を約束し、体まで重ねたこの人に…。ついていくと決めているのに、もしも…。