2
□嫌いな理由
1ページ/7ページ
沈丁花の香に、ふと目線をあげると木蓮が目に入った。
七緒は大きく溜め息を吐いた。
日差しが温かくなり、花々が競って咲き乱れる季節になった。
春である。
春は心弾む季節だ。
七緒とて嫌いではない。何より暖かい気候は、冷え性の身には非常にありがたいくらいだ。
だが、春でもこの時期だけは七緒を憂欝にさせるのだ。
執務室に入ると、春水の机の上には山積みの書類があった。
七緒は大きく溜め息を吐く。
「…桜が終わるまでは…また、片付かないのね…」
今、桜は三分咲き。満開になり、散るまでは、春水は戻ってこない。
「……桜なんて、嫌いよ…」
七緒は、小さく呟いた。
「桜はいいねぇ…」
春水はのんびりと桜並木を歩いていた。春の陽気に加え、桜の美しい木々。実に良い散歩日和だ。
以前七緒を誘ったこともあるのだが、桜は嫌いだと、断られてしまった。
「…こんなに、綺麗なのになぁ…」
満開の桜を、七緒と見てみたいと思うのだが、彼女が嫌いなのでは無理強いはできない。
「一人で堪能するのは、勿体ないんだよねぇ…」
そこへ、女の子達の声が聞こえ、春水は笑顔で声をかけた。
「一緒に花見しない?」