□嫌いな理由
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 沈丁花の香に、ふと目線をあげると木蓮が目に入った。

 七緒は大きく溜め息を吐いた。
 日差しが温かくなり、花々が競って咲き乱れる季節になった。

 春である。
 春は心弾む季節だ。
 七緒とて嫌いではない。何より暖かい気候は、冷え性の身には非常にありがたいくらいだ。
 だが、春でもこの時期だけは七緒を憂欝にさせるのだ。


 執務室に入ると、春水の机の上には山積みの書類があった。
 七緒は大きく溜め息を吐く。
「…桜が終わるまでは…また、片付かないのね…」
 今、桜は三分咲き。満開になり、散るまでは、春水は戻ってこない。
「……桜なんて、嫌いよ…」
 七緒は、小さく呟いた。




「桜はいいねぇ…」
 春水はのんびりと桜並木を歩いていた。春の陽気に加え、桜の美しい木々。実に良い散歩日和だ。
 以前七緒を誘ったこともあるのだが、桜は嫌いだと、断られてしまった。
「…こんなに、綺麗なのになぁ…」
 満開の桜を、七緒と見てみたいと思うのだが、彼女が嫌いなのでは無理強いはできない。
「一人で堪能するのは、勿体ないんだよねぇ…」
 そこへ、女の子達の声が聞こえ、春水は笑顔で声をかけた。
「一緒に花見しない?」
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