□声
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「ん…ふ…」
 声を上げる代わりに、喉を鳴らし、鼻を鳴らす。
「…夜一サン…声…上げません?」
 刑戦装束の脇から手を入れ、豊かな胸を揉み、後ろから腰を突き上げ、軽く攻め上げながら喜助は問うた。夜一の柔らかな髪が、喜助の動きに伴い揺れ首筋を擽るが、夜一は息を弾ませるだけだ。
「…は…無理じゃ…ん…」
「どう…して…?」
「……いかなる時も…声を…上げぬよう…訓練…して…お…る…」
 体の奥深く突かれながら、息を弾ませながらも律儀に返す夜一に、喜助は不満そうに眉間に皺を刻み、より一層奥を抉る。
「んっ!」
「聞きたいなぁ…夜一サンの喘ぎ声…」
 喜助は耳元で囁き、耳朶を舐めながら甘え声を出す。
「ん…は……」
 それでも夜一は吐息だけを吐き出す。そこに声は伴わない。
「聞かせて…」
「…クドイっ…」
 夜一は喜助を睨み上げ、喜助の死覇装を掴む。
「……」
 だが、喜助は動きを止め、身体を離してしまった。
「…止めます…」
「…喜助」
「…判ってるんスよ…、夜一サンの言いたい事も、アタシが我儘言ってる事も…。けど…今日は…どうしても…」
 夜一から離れ、背を向けぽつりぽつりと呟く喜助。夜一は身体捻り、黙って背を見つめる。
「…何があった?」
「……聞かせてくれませんか?…」
「訳を言え!」
 呟くように繰り返す喜助に、夜一は苛立ち声を荒げ、喜助の肩を掴み己の方へと向かせる。
「……夜一…サン…」
 喜助の瞳には、様々な光が揺らめいていた。
「喜助」
「……声を…聞かせて…」
「訳を言え。でなければ聞かせん」
 夜一は真っすぐに喜助の瞳を射ぬく。
「…言ったら…聞かせてくれますか?」
「ああ」
 内容次第だと、取引はしない。話せばどんな内容でも聞かせようと頷いた。
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