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□花簪と花言葉
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「はい、七緒ちゃん」
春水は慣れた手つきで、七緒の髪に木蓮の枝を簪のように挿した。
「隊長っ!何度言えばおわかりになるんですかっ!手折っては…」
「うん、ちゃんと買ってきたよ。ほら」
七緒は眉を釣り上げ叱りかけたが、春水に遮られ手の中の木蓮の花束を見て、七緒は黙り込む。
「…わ、やっぱり七緒ちゃんに良く似合う」
七緒に木蓮の花束を渡しながら、春水ははしゃぐ。
大振りで暗紫色の花は、とても七緒に似合っていた。淡い色も似合うが、濃い色も実に良く似合っている。腕に抱えられた花束もまた似合っていた。
「………ありがとう…ございます…」
七緒は頬を染め、小さな声で礼を述べた。
簪は一日七緒の頭を飾り、翌日は一輪挿しの花瓶へと移動し七緒の机の上を飾り、花束は木ということもあり、生け花へと形を変え、暫し八番隊の執務室を飾っていた。
こんな出来事があったのは、弥生の頃。
それから春水は、さぼりに出て、気に入った花を見つけては買ってきて、一枝簪のように挿す。
梅の一件もあってから、どうも気に入ってしまったらしい。
飾り気のない七緒を飾り立てたいのだが、高級な代物を買っても中々受け取って貰えない。
だが、殺風景な執務室に花瓶を置くことを七緒は反対しないし、寧ろ喜ぶ。執務室に飾る花を同時に、七緒に贈る事で紛らわせているのだ。
七緒に贈る簪になる、ただ一枝の為に、他の枝丸ごと買っていると言っても過言ではない。
馬酔木や桜も贈った。沈丁花も迷ったが、香が高すぎたので止めた。
つぼ形の白い小花が房状に咲く馬酔木は、簪の飾り房にも見えて、可愛らしく清楚にみえた。
桜の花は、ソメイヨシノを贈った。薄い桜色が、黒髪に映え、可憐に見えたのだった。