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□やる気の出る方法
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「いーやーだー」
執務室の入り口にしがみ付き、駄々を捏ねる男が一人。
「隊長っ!そんな我儘ばかりっおっしゃらないでっ!!」
男の副官が、懸命に男を入り口から引き剥がそうと、引っ張っている。
「やだやだ、何で、ボクにばっかりー!」
「仕方がありませんでしょう!三番隊、五番隊、九番隊隊長が一気に抜けて、十番隊は隊長副隊長供に現世へと派遣されているのですからっ」
そう、一気に隊長が抜けた穴は、当然の事ながら他隊の隊長達へと負担が掛かる。
同時に、三人の隊長達の捜索やら痕跡やらを調べなくてはならず、否応無しに書類の山が残った者たちへと降りかかってくる。
只でさえ書類仕事が大嫌いな男が駄々を捏ねたくなるというものだ。
「仕方がありませんね」
女…七緒が手を離し大きく溜息を吐きつつ、眼鏡を持ち上げる。
「え?しなくていい?」
男…春水が嬉しそうに、七緒を振り返る。
「誰がそんなことを言いましたか。やる気が出るような事を提案しようとしているだけです」
「やる気が?こんな書類の山を前に?」
「ええ。山本総隊長のご許可も得ました。書類仕事が進むならばと、快くご承諾頂けました」
「…山じぃが?…どんな?」
春水が恐る恐る七緒の提案を尋ねる。
「では、京楽隊長はこちらへとお召し替え下さい」
「これを?何これ?」
「着替えてください」
「…うん。解った…」
七緒の迫力ある笑顔に、春水は思わず素直に頷き、着替えに隊首室へと向った。
着替えを済ませ、執務室へと戻って来る。
戻ってきた春水の顔は笑顔である。
何故ならば、春水の着替えたものは、現世の服。淡いブルーのシャツに、紅色のネクタイ。濃紺のスーツだったのだ。否応無しに七緒の服に期待をもたされると言うものである。
そわそわしながら、机に着き、七緒を待つ。