□慣れ
1ページ/5ページ

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花…か…」
「はぁ?」
 七緒は書類を手に立ち上がり、春水の机へと向かう所だった。
「七緒ちゃんにぴったりな諺だね」
 春水は手を組み甲に顎を乗せ、目を細め眩しそうに、七緒を見つめていた。
「お褒めいただき光栄ですが、私には不釣り合いですよ」
「そんな事ないよ」
「その諺は、容姿の美しい人の立ち居ふるまいを花になぞらえたものじゃないですか」
「うん。七緒ちゃん美人さんだし、姿勢も良いから動きも綺麗だし…」
「隊長…」
 七緒は言葉を遮り、頬を朱に染め、恨めしげに春水を見返す。
「何?」
「恥ずかしい台詞は止めてください」
「何で?ボクは思ったままのこと言ってるだけだよ」
 春水は口元に笑みを浮かべて、小首を傾げる。
「そういう言葉は、卯ノ花隊長や、乱菊さんに贈って下さい」
 照れ隠しに書類を乱暴に突き出す。
「七緒ちゃんは自分を過小評価しすぎだよ」
 書類を受け取り、七緒を見上げる。
「そんな事は…」
「あのね、七緒ちゃん。男は女の子を誉める義務があるんだよ」
「はぁ?」
「花なんかさ、毎日『綺麗だね』とか声を掛けると本当に綺麗に咲いたりするって知ってる?」
「…そうなのですか…」
「女の子も一緒。誉めて綺麗だねって言うと、どんどん綺麗になるんだから」
 楽しそうに、嬉しそうに語る春水を、七緒は眉根を寄せて見返し、溜息を吐く。
「……隊長は、美しいものがお好きですものね。おサボりになる理由がよく解りました」
 七緒は春水に背を向け、席に戻る。
「七緒ちゃん?」
「外には美しいものが溢れていますものね。狭い部屋で、しかめ面を見ていたくないのでしょう?」
「…何でそんな話になるの?七緒ちゃん美人だって言ってるのに…」
 冷たく言い放つ七緒に、春水は首を傾げた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ