□特別な
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「…それでは、夜分に失礼致しました…」
「きゃっ!」
 七緒が頭を下げ障子戸を開けると、一人の女性が戸の前に立っていた。寝巻姿で。
「伊勢副隊長…」
 女は驚きの表情で七緒を見ていたが、七緒の着物が訪問着であり、髪一本乱しておらず、ちらりと中を伺えば春水の着物も乱れていなかったことから、安堵の表情になった。
 春水の傍らには小さな包みがあった。七緒がわざわざこの時間に春水に贈り物を届けにきたのだと、判断した。
 七緒は女の様子に眉根を少しばかり寄せ、一言だけ忠告した。
「…遅刻はしないように」
「は〜い」
 七緒が静かに去っていき、女は舌を出し見送る。
「何か用かい?」
「あ、はい!京楽隊長に誕生日プレゼントを」
 女は微かな恥じらいと期待とを篭めて、室内の春水へと視線を送る。
「わざわざ?ありがとう」
 春水はさり気なく立ち上がり、障子戸にもたれ掛かる。女を出迎えたようにもみえた。
「あの…伊勢副隊長も?」
「うん…、朝になるとボクが捕まらないからって。律儀だよね。そこがまた、彼女のいい所なのだけれど…」
「京楽隊長…」
「うん?」
「…あの。わたしを…」
「……自隊の子とはしないことにしてるんだ」
 春水が微笑を浮かべやんわりと断る。
「でも…」
「ご免よ…。八番隊の子はボクにとって大切な家族なんだ…」
 女に触れる事無く微笑を浮かべたまま、柔らかな眼差しで見つめ続ける。下がった眉が、困らせているように見え、女は哀しげな表情で春水を見上げた。
「…他隊なら…」
「…移動しても変わらないよ。お嫁に出した気分になっちゃう」
「……そうなんですね」
 自分の置かれた立場に、女は頷かざる得なかった。他隊の女と噂はあっても、八番隊ではない事を思い出したのだ。
「…ゆっくり、おやすみ」
「はい…おやすみなさい…」
 女が頭を下げ、背を向けると春水は戸を締め中に入った…。
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