□日常の中で
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「京楽隊長、こちらとこちらに署名をお願い致します」
「はーい」
 七緒が丁寧に書類を揃えて春水に手渡す。春水が直ぐに見られるように、見やすいように位置を合わせて。
 何気ない、さり気ない気遣いに、春水はつい口元が綻ぶ。どんなに忙しくても、急ぎの仕事でも七緒は気遣いを忘れない。
 一番最初は何て神経質なのだろうと思ったのだが、毎日見ているうちに、神経質なのでなく、気遣いなのだと気がついた。


「七緒ちゃん、休憩にしないかい?」
「ああ、もうこんな時間でしたか」
 春水が側にいると、七緒は根を詰めて仕事をしてしまう。春水がいるという安心からなのか、それとも春水がいるうちにと切羽詰まってのことなのか、時間を忘れてしまうので、春水が気を付けてみている。否、七緒の様子を眺めているうちに気が付くのだ、七緒のペースが落ちて来たなと。疲れがたまり始めた頃に声を掛ける。それだけだ。


 些細な事の積み重ね。

 不思議と八番隊はこれで上手くいっているのだ。


 春水は遊んでいるようで、実は様々なものを見ている。
 七緒は春水に厳しくしているようで、ちゃんと甘やかしている。


「伊勢副隊長」
七緒は不意に、自隊の女性死神に呼び止められた。
「何でしょう?」
「京楽隊長に冷たすぎます」
「…そうですか?」
「そうです!」
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