◇BLEACH
□交差
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一雨毎に涼しくなっていく季節になった。日中は汗ばむが、夕方は心地良い風が吹く。
「ふう」
隊舎に駆け込み一息吐く。屋根の下から、灰色の空を見上げる。
「何も今降らなくてもいいのに」
突然の雨に書類が濡れてしまう所だった。
執務室へ足早に向かう。
戸を軽く叩き、中へ声を掛ける。どうせ誰もいないだろうけれど。
「失礼します」
「は〜い、どうぞ」
「え?」
思いがけず返ってきた声に驚き、戸を開ける。
「おっかえり〜七緒ちゃん!」
「あ、はい、只今戻りました…」
自分がいない隙に、てっきりさぼりに出たと思っていた。
「あれっ、雨降ったの?七緒ちゃん濡れてるよ」
「大したことはありません」
胸元にしまいこんだ書類を取り出す。濡れていない。多少皺にはなっているが、本を重し代わりにおけば伸ばせそうだ。丁寧に書類を机の上に広げる手を、春水がさえぎる。
「七緒ちゃん、それより先に髪を拭ったほうがいい」
「そんなに濡れていませんし、直ぐに乾きますから」
「…何言ってるの。結構濡れてるよ。何ならボクが拭いて…」
「結構です、自分でやります」
「ちぇっ」
頭に伸ばされる手を制し、慌てて引き出しから手拭いを取出し、拭う。
結構濡れていたらしい。髪を拭うと、手拭いはしっとりと濡れ、肩を拭えば、着物も手拭いも水を含み重くなったのが解る。
だが、今持ってきたこの書類は緊急のもの。
そのまま椅子に座り、眼鏡を外して、レンズを拭うと、眼鏡を掛けなおし、書類に目を通しはじめた。
「秋雨は、冷えるよ」
春水は苦笑いを浮かべる。本当はちゃんと乾かして、死覇裳も着替えて欲しいのだが、こういう時の七緒は頑固だと知っている春水は、自分の上着を七緒の肩へ掛けた。
「隊長のお着物が濡れてしまいます」
はっと顔を上げ、慌てて掛けられた着物を取ろうとする。こういう所ばかり気がついて、自分の体は労わろうとしない七緒にやんわりと注意する。
「七緒ちゃんが風邪引く方が大変だから」
指摘された言葉に、ぐっと唇を噛み締める。そして、春水の優しさに泣きだしてしまいそうな気分になる。ふざけてばかりいるのに、時折ものすごく優しい。だから絆されそうになるのだ。
「お借りします…」
書類に視線を向けて、ほんのりと頬を染めながら、一言だけ返した。
「どうぞ」
春水も机に戻り、真面目に書類に目を通しはじめた。七緒が風邪をひいてしまわないように。
真面目に取り組めば、能力の高い二人の事。あっと言う間に仕事は片付いた。