◇BLEACH

□指先
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「ほう…」
 書類仕事の手を休めて、指先に温かい息を吐く。
 七緒は立ち上がって、障子を閉めた。

 朝晩が一気に冷え込む季節は辛い。
 日中は汗ばむくらいなので、暖房など入れられない。
 残業が一番辛い季節。

 体を動かさず、ひたすら書類に向っているので、指先がおかしくなる。
 体内と指先を少しでも温めようと、お茶を淹れる。

「ほう」
 お茶を一口飲んで一息吐く。
「さて、もう一息だわ」

 執務室に七緒の静かな呼吸と、衣擦れの音と、筆が紙を擦る音だけが微かに聞こえる。


 静かな静かな執務室に、小さく扉の開く音。



「お早いお戻りで」
 七緒は書類から目を離さず、声だけで冷ややかに問い掛ける。
「あ、七緒ちゃん、まだお仕事してたんだね?」
 外はもう真っ暗。
 春水の頬はほんのり染まり、酒精があたりを漂っています。
「隊長の分はそちらにございます」
 左手で机を示し、右手は筆を走らせたまま。
「ああ、うん…」
 そろそろと自分の机に戻り、積み上げられた書類に辟易する。溜めたのは自分の怠慢が招いたことなのだが。

 七緒が手を止め、湯飲みを手にしたものの眉を顰め、再び筆を取った。
 その様子を見ていた春水は、楚々と七緒の側に寄る。
「七緒ちゃん。はい」
 春水が手を差し出す。
「何でしょう?」
「手が冷えてるんでしょ?ボクの手温かいから」
 七緒は春水の顔と手を見、筆を置く。
「お酒を飲んでいらっしゃるから温かいんでしょう?」
「それもあるけど、元々ボクは温かい方だし」
 笑顔で促す。
 どうどうと、七緒に触れるチャンスをこの男が逃すはずがないのだ。
 七緒もそれを解っているから渋るのだが、背に腹は変えられない。
 
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