□時の流れ
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「ああ…しまったな…『お父さん、娘さんを下さい』ってやり損ねたな…」
 春水は七緒の背を撫で、努めて明るく言った。
「…ふふ…。でも、真面目な人でしたから、このなりでは、叩き出されたかもしれません」
「いやぁ、いくら何でも挨拶に行く時は、真面目にしますよ?真面目に」
「…ふふ…ふ…」
 春水の言葉に、七緒は笑って見せたが、意に反して涙が零れ落ちる。
「七緒ちゃん…」
「…また…親不孝を…してしまいました…」
「何言ってるの!今度はご両親よりも、長生きしたでしょうが」
 七緒は子供の事に流魂街へたどり着いた。それは、子供の頃に現世で死んだと言う事だ。親と供に死んだのか、それとも先に死んでしまったのかは解らないが、花嫁姿や孫を見せられなかったのは間違いない。この尸魂街においても、またしても花嫁姿も孫も見せられなかった。
 それでも、死神になり、春水の言う通り間違いなく、両親よりは長生きをしている。
「…はい…」
 七緒は微笑を浮かべ、頷く。
「……隊長…」
「うん?」
「私…子供がたくさん欲しいんです…」
「いいね、ボクもたくさん欲しいよ」
「…山本総隊長くらいに、年を取っても…八番隊で…隊長と一緒にいられたら…」
 七緒の言葉に、春水は目を丸くする。
「七緒ちゃんって…」
「…何ですか?」
「可愛いねぇ!そんな夢見てくれてるんだ」
「…いけませんか?」
「いや?是非とも協力したいね!それでもって、京楽の名を広めてやって、じじい供の鼻を明かすのも楽しそうだ」
「はい」
 春水は七緒を抱き上げる。
「きゃ」
「よっし!まずは子作りから行こうか!!」
「順番が逆です!!先に結婚です!嫌ですよ、未婚の母だなんて」
 七緒は春水の顔を押しのけ降りようともがく。
「いいじゃないの、逆でも」
「嫌ですってば」
 もがく七緒を軽々と抱き運び、春水は隊首室へと入って行く。

 
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