□嫌いな理由
2ページ/7ページ

「伊勢副隊長…あの、京楽隊長は…」
 隊長決済の書類を抱え、辰房が恐る恐る七緒へと声をかける。
「……。花見でしょう」
「あの…探しに行かれないのですか?」
「……至急なのですか?」
「はい…」
「………」
 大きな身体を小さくし、申し訳なさそうに伺う辰房に、七緒は大きく溜息を吐き、立ち上がった。
「お願い致します」
「…暫く、留守を頼みます」
「ははっ」
 七緒は重い腰をようやく上げたのだった。



 幾つかある、桜並木を片っ端から当たる。
 三つ目の名所で、春水を見つけた。
 七緒は無表情で近寄り、声を掛ける。
「京楽隊長」
「あ、七緒ちゃん」
「…至急の決済があるので、大至急お戻り頂きたいのですが」
「…至急なの?」
「でなければ、探しにきません」
「…しょうがないね…。盛り上がってたんだけど…」
 春水は女性達に断りを入れ、腰を上げる。
「……先に戻っておりますので」
 七緒は踵を返し、先を歩く。
「七緒ちゃん?」
 春水は慌てて七緒を追いかけ、肩を掴む。
「セクハラです」
 肩に乗せられた手を、扇子で払い退ける。
「…本当に桜、嫌いなんだねぇ…。いつもより、眉間の皺が深いよ」
「……ええ、大嫌いです」
「こんなに綺麗なのに…」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ