◇BLEACH
□誘われて
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「隊長、どちらにいかれるのです?」
あまり遠出しては戻るのに時間が掛かる。近場で済ませたいと七緒は思っていた。
「うん、直ぐそこ。いいところがあるんだよ」
春水は七緒の前を、ゆったりと歩いていく。
通りに出れば、あちこちから女性に声を掛けられ、春水は軽く手をあげ笑顔で返す。
七緒は知らず、小さく溜息を漏らす。
――本当に女性にはマメなんだから――
天気の良さとは裏腹に、七緒は少しずつ機嫌が悪くなっていく。やはり、ついてくるのではなかったと思う。
やがて、春水の足が止まった。
「隊長?」
「ここ、いいと思わない?」
何時の間にか、七緒の後ろにいる。
声に促され顔を上げてみると、そこはぽっかりと開けた小さな丘だった。
なだらかな小さな丘には、大きな木が数本。日当たりの良い斜面は、一面柔らかな、背丈の低い雑草でおおい尽くされている。
「ここね、昼寝するのにすっごくいいところなんだよ」
「…気持ちの良さそうなところですね」
「うん。こっちこっち」
春水は七緒の手を取り、一本の木の下へと向う。
「…隊長!…」
人に見られますと言いかけると、春水はくるりと振り返って、片目を瞑る。
「ここは私有地で、今は誰も来ないから大丈夫」
「私有地なんですか?勝手に入っては…」
「平気平気」
尚、反論しようとして、七緒はふと思い立った。柔らかい雑草は、よく見れば、人の手が入っている。所々に植えられた大木も、剪定されている。頻繁にではないが、人が訪れるのに、春水がどうどうと真っ直ぐにここに来たということは、ここは恐らく春水の実家の持ち物なのだと。
京楽家は上流貴族である。これほどの土地をもっていても不思議はない。
「隊長のお気に入りの木はこれですか?」
そうと解れば、七緒も素直になれると言うものだ。
「そう。この木の下の風は本当に心地いいんだよ」
木の下に腰を降ろし、七緒も手を繋いだまま隣に座る。
「……本当に、気持ちがいいですね」
「そうだろう?」
素直な七緒に、春水は益々上機嫌になる。
「ここで昼寝をすると最高なんだよ」
手を離し、ごろりと横になる。