本棚T

□好きのシルシ
1ページ/7ページ

空気の入れ換えにと窓を開け、空を見上げる。










『好きのシルシ』










今日は快晴。午後の気温は37度。自然と汗が頬を伝う。
そして決まってこんな日は、無性に彼を呼びたくなるんだ。

雲ひとつない空は、何故か彼の笑顔を思い起こさせる。










「うえき……」










「呼んだ?」


「ええっ!?」



驚いて声のした道路の方を見ると、彼は何故かそこにいて、顔中で笑いながら僕を見ていた。



「……えと…あがりますか?」


「勿論!」



そう言うと、彼は嬉しそうに玄関に向かった。
いつの間に来ていたのだろうか。何か用事でもあったのだろうか。

でも、そんなこと、はっきり行ってどうでも良かった。



(嬉しい……)



ニヤつくのを懸命にこらえながら、玄関の鍵を開けにかかる。



「どうぞ。」

「お邪魔します! 犬のおっさん、いつもタイミング良いな。」


「そうですか?」



サンダルを脱ぎながら、部屋の中だと少しは涼しいな、と彼は呟いた。
なんでも、この暑い中、僕が家から出てくるまで待っていようと思っていたらしい。

もし1日中出てこなかったらどうするつもりだったのだろう。



「だって、何にも言わないで来たから。」


「呼び鈴の1つや2つ、鳴らしてください。」

「ああ、その手があったか! しかし、ちょうど着いたところでよかった。」


「本当に。倒れられたら大変……」

「なんか、呼ばれたみたいだったしなー。」


「ぶっ!」



思いきり飲みかけの水を吹き出す。しっかり聞かれてたのか。
恥ずかしい……。

軽く睨みつけたが、それでも彼は嬉しそうににこっと笑うのだった。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ