文集2
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「雲雀くんの馬鹿ぁっ!!!」
珍しい骸の大声に、千種と犬は思わず肩をビクリと震わせ顔を見合わせた。
「……骸…さん?」
「………如何したんだろう」
千種はどうせ痴話喧嘩なのだろうけどと心の中で付け加えて犬の頭を撫でてやった。
気にしてもしなくても結果が一緒なら、なるべくならば関わらない事が賢い生き方なのだ。
ところがそうも行かなかった。
先程の大声の主が、部屋を飛び出し自分達の居る場所まで走ってやって来る音がするのだ。
「犬、無視して良いから」
「わ、わかったびょん…」
そうは言ったが、扉の前で大声で泣かれては煩い事この上無い。そして犬の良心が痛み、遂に策略に嵌り開けて仕舞った。
「犬っ!僕の悩みを聞いてくれるのですね!!」
開けるなりいきなり犬に飛び付いた骸は、かなり一方的にそう言い放った。
「む、骸さん?!」
犬がおたおたしているのを見ていられ無くて、千種は犬から骸を引き剥がした。
「……今度は何を仕出かしたんですか?」
溜め息混じりに千種がそう訊ねると、骸は嬉しそうに微笑って礼を言った。いつもこういう顔でいれば良いのにと、千種は少しだけ思った。
「それが、雲雀くんったら酷いんです!!僕の事を一度も名前で呼んでくれないんですよ!!!」
(あぁー…やっぱり聞いて損した……)
然う思うのだとわかってはいたのに、この人の事ならば聞いて差し上げなければいけない様な気がしてしまう自分が千種は嫌だった。(如何仕様も無い事は承知済みの筈ではあったのに)
「………其れは俺達では解決出来無い事ですので……」
「そんなぁっ!!」
(……悲痛な声を出したって無駄だ…)
思い込みの力を少しだけ信じてみる千種である。
(どうせ、あの人が此処に来てこの人に一言「行こう」と言えば、忽ち元気を取り戻してこの人は其方へ行って仕舞うんだ)
未だに犬から離れ様としない骸に呆れた溜め息を吐くと、千種は面倒そうに立ち上がった。
「柿ぴ…?」
「もしかして、行ってくれるのですか?」
「……………」
(白々しい。どうせ俺が断れない事を知っている癖に)
骸をチラリと見てから、千種は部屋を出て骸の喧嘩の相手の居るであろう場所へ向かった。
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