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□幸せと愛の正しいかたち
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「例えば、僕かあなた…どちらかが女性で、どこからどうみても微笑ましい高校生の恋人同士であったなら…と、考えた事はありませんか?」
「無い。だいたい俺はな、ただでさえお前の隣を歩いてるだけで無駄に緊張するんだぞ。それなのに男女で歩くなんて、緊張のピークだ。右手と右足同時に前に出るぞ。声も震えてろくに会話も出来んぞ。考えるだけで身体が固くなる」
「…僕はね、そう思った事があるんですよ」
「……」
「だから、今回のこの事は、本当は僕の夢の中の出来事なのかもしれない…と、考えてもいるんです」
……ほっぺた思い切りつねってやろうか
「遠慮しておきます。ただ、あまりにも僕の理想と一致し過ぎていて……僕は、この状況を、正したいとは思っていないのかもしれません」
俺は物凄く困るのだが?
「ごめんなさい……今回のこの件では、僕はあなたのお力にはなれそうにありませんね」
無理矢理作ったその笑顔は、すごく寂しげに見えた。
取り敢えず俺自身は、元に戻りたいと思っている。身長が縮んだ所為で元々あった身長差が嫌みなくらいにはっきりしてしまい、俺は今古泉を見上げる形になっている。
朝起きた時には、既にこうなっていた。
そして、これが普通の事なのだという世界に改変されていた。誰がどんな理由があって俺だけが女になるなどという世界を作りたかったと言うのだ。毎度の事乍ら何故俺たちSOS団(ハルヒ除く)だけはその情報変化に巻き込まれないのだろう。
「これも毎度の事ではありますが、涼宮さんに近しい人間だから…でしょうね」
「てことは、やっぱり今回もハルヒが原因か」
「そう考えて良いでしょう。こんな事をしてしまえる力を持った何かに、涼宮さん以外に思い当たるものがありませんから」
んなもんが他にあっても嫌だがな。
まったく、なんだっていつもいつも主に俺にばかりこうも被害が及ぶのだ。そのたびに苦労を被る身にもなってみやがれ。
「こんな時にこんな事を訊くのも非常識かと思いますが…やはり、元に戻りたいとお考えですか?」
当たり前だ。いつまでも女の身体じゃ俺は不都合だ。
「……そうですか。残念です」
すまんが、俺はこんな身体じゃ自分の身体だって気がしないんでね。
「いえ、そんな。…ただの僕の我が儘ですから、聞き流して下さって結構です。ただ、女の子のあなたも、可愛らしくて素敵ですよ」
そんな顔で笑ったって無駄だぞ。そんな笑顔は本物の女の子達に振り撒いてやれ。
「おや、そんな事をして良いのですか?僕がそうするとあなたが不機嫌そうな顔をする事を、僕は知らない訳ではないのですがね」
クックッと喉を鳴らすと、古泉は楽しそうに俺を見た。
なんだそのわかってますよと言わんばかりの笑顔は。俺はまだ何も言っとらんぞ。
「ええ、ですから…あなたが戻ってしまう前に、今のあなたと少しでも長く普通の恋人ごっこをしたいんですよ、僕は」
「……やっぱり嫌か、男の俺は」
「そういう意味では、無いんです…ただ、やはり、色々と考えると、いずれはあなたと離れなければならない日が来るのなら、せめて世間に公表出来るような関係であれば…と、願っていたのですよ」
「別に公表しちまっても良いんだが?」
「もしも涼宮さんにバレてしまって、色々と困るのは僕なんですが」
「知ってるよ。からかっただけさ」
古泉の困った顔を見るのは、案外好きだ。こいつはまた困った顔で苦笑するから、俺は楽しくて笑ってしまった。
「今のあなたがそうして笑うと、無条件に可愛らしいんですから…ずるいですよ」
むすっとした顔を作ると、古泉は俺の随分と細くなった肩を優しく抱き締めた。
俺は今俺の身長分の栄養が全部そっちへ行ったんじゃないかと疑うくらい長くなった髪を後ろで結んでいて、その髪を古泉は楽しそうに指に絡めて梳いていた。
俺もなんとなくそれが気持ち良くて、暫くされるがままになっていた。
「……キョンくん、大好きです」
「………知ってるよ」
ああ宣言しておいてなんだが、俺も少しくらいなら、こいつの願望に付き合ってやってもいいかな、くらいは思ってるんだ。…俺だって、何とも思わずただ戻りたい、とだけしか考えなかった訳じゃない。
ただ、素直に認めてやるのがしゃくだっただけなんだ。まあ、そんな事絶対言わないけどな。
「…仕方ねぇな。なら、俺の願いも叶えてくれるんだろうな?」
「あなたの願い、とは 何でしょう?」
「毎日送り迎えと、公衆の面前で堂々と手を繋ぐ事。…それくらい、付き合ってんなら当然だろ?」
俺がそう言うと、古泉は面食らったように固まった後、
「……ふふ、承知致しました」
嬉しそうに、ふわりと微笑った。

すまんな、長門。お前を頼るのは、もう少し後の事になりそうだ。




end
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