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□Azionamento
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Azionamento
「雲雀君」
エンジンの音と共に聞こえてきた、僕を呼ぶ声。振り向いた先にあったのは、バイクに乗った骸の姿。
「…僕の前でバイクに乗るなんて、いい度胸してるね。君、まだ中学生でしょ」
「雲雀君だって乗っているじゃないですか」
「僕は良いんだよ」
ヘルメットを外しながら、骸が抗議の声を上げた。それを無視して、僕は彼に近寄る。
「今日くらい勘弁してくださいよ」
「仕方ないね。…で? 僕に何の用?」
まさか、用も無くて話し掛けた訳じゃないだろうね?
ほんの少し不機嫌そうに言うと、骸は苦笑いを浮かべて。
「違いますよ。ちゃんと用はあります。雲雀君、今からドライブでもしません?」
「は…?」
何言ってんの、と言う間もなくバイクへと乗せられて、ヘルメットを被せられた。
「ちょっと…」
「飛ばしますので、しっかり捕まっていてくださいね」
そう言って、僕が反論する前に、骸はバイクを走り出させた。
「で、君は僕をこんな所に連れて来て、一体何がしたかったわけ?」
あれからしばらく走って、僕達は夕陽の綺麗な砂浜へと来ていた。
骸の運転は速度が速い割には安全なもので、僕を気遣っていたのか、それとも普段からそうなのか、よく分からないけれど。バイクを運転する姿は、少しだけ格好良いと思ってしまった。
…なんて、本人には言ってなんてあげないけれど。
「たまには君と、こうして時間を過ごすのも良いかと思いまして」
嬉しそうに浜辺を散策する骸と、そんな彼をバイクに座ったままで眺める僕。
「ね、雲雀君も一緒に歩きましょうよ」
「嫌だよ面倒臭い…」
僕が露骨に嫌そうな顔をして言えば、君は苦笑いを浮かべながら、こちらへと歩いて来て。
「そんなこと言わないで、ね?」
「嫌だってば」
「どうしてもですか?」
「どうしても」
強気に言い放つと、骸はほんの少し寂し気な表情になって。その顔に弱い僕は、つい、彼に対して甘くなってしまうんだ。
「……じゃあ…キス、してくれたら考えてあげる」
「へ…?」
「何、僕じゃあ不服なわけ?」
「い、いえ。違います。不服なわけ有りません!」
むしろ、嬉しいです!
慌ててぶんぶんと首を横に振る骸がおかしくて、クスクスと笑いが零れる。
「君って、本当におかしいよね」
「ひ、雲雀、君………あの、ほ、本当に良いんです…か?」
「…良いって言ってるでしょ」
そんな僕に、困った様な表情で問う骸。
良いに、決まってるのにね。
改めて聞かれてしまうと、こちらが恥ずかしくなってくる。
「雲雀君…」
「…ん」
ゆっくりと唇を重ねられて、何度も口付けをされて。
どのくらいの時間が経った頃だろうか。ようやく唇を離された時には、僕はすっかり息が上がってしまっていた。
「…最、悪…っ」
「クフ。誘ったのは君ですよ?」
「誘ってなんか、無い…っ」
耳元で囁かれて。自分の顔が熱を持っていくのが、よく分かる。
「可愛いですねぇ…君は」
「可愛いとか言わないで」
ぎゅう、とバイクの上で抱き締められて、僕は身動きが出来なくて。
ただ、骸の背に手を回すしか出来なかった。
「…ねぇ、散歩するんじゃ、ないの?」
「…やっぱり、こうしている方が良いです」
「そう…」
けれど。
「…僕も、こうしてる方が良い…かもね」
「雲雀君…」
大好きな人の温もりを感じて過ごすのも、悪くはないと思う。
「愛してます、雲雀君」
「…知ってるよ、そんなの」
僕の顔は相変わらず真っ赤で。それはきっと夕陽のせいだ、なんて言い訳を思い浮かべながら、その表情を見られたくなくて、そっと骸の胸に顔を埋めた。
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