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□僕は君が好きみたい
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気持ちの悪い感覚に襲われる。
それも、決まってあいつのいる時に。
気配がすると 心臓が可笑しくなる。声を聞くと 思考が止まる。傍に寄ると 身体中がざわめき立つ。
こんな事は今まで一度も無かった。きっと僕があいつを心の底から嫌っているからだ。そうに違いない。
そう 思い込む事にした。

コツ、コツ、コツ…

廊下を歩く音がする。段々と、この部屋へと近付いて来る。
何時の間にか 聞き耳を立てている僕がいる。
まるで不意打ちにも対応出来る様にするみたいに。
それでもあくまで冷静に、書類を片付ける振りをする(その書類は最近の風紀委員に楯突く群についての報告書だったけれど、途端に頭に入らなくなってしまった)。…人1人の訪問に、これだけするのも時間の無駄ではあるけれど。
「こんにちは、雲雀くん」
そいつは急襲するでもなく、緩慢な動作で扉を開けて入って来た(当たり前だ。襲うつもりなら足音等鳴らす筈が無い)。
「…何の用だい」
ジロリ と睨み付けると、骸は少し寂しげに微笑んだ。
「来る度そう睨まれては、幾ら僕でも傷付きますよ」
そのまま近付いて来ると、僕の思考は凍り付いてしまった様に動かなくなった。
「何処か行ってくれないかな。僕の前に現れないで」
凍った儘の思考が、良く分からない内に骸を拒絶した。
今まで散々拒絶の言葉は浴びせて来たけれど、そのどれもがちゃんと届く前にぽとりと落ちてしまうだけだった。
今回も然う成るだろうと感じたのに、何故か骸は反論も無くピタリと止まった儘だった。
「……骸?」
不審に思って声を掛けると、暫くしてから反応が返って来た。…予想外の反応だった。
「すみません。散々迷惑を掛けた上に毎日好きでも無い人間が勝手に来るんですものね。お邪魔しました。もう来ませんから。お元気で」
畳み掛ける様に早口に然う言うと、骸はさっさと出て行ってしまった。
僕は何故だか少し慌てて、良く見もしないで書類に判を押し骸の出て行った廊下を見つめた。
廊下には人っ子一人見当たらず、追い掛ける事も引き留める事も出来なかった(僕は骸を留めたかったのか?)。
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