文集1

□あしたてんきに………side N
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一生懸命言葉を繋げて会話にしようと懸命に話し掛ける彼には悪かったが、今声を出したら涙声になりそうでイヤだったので、黙っていた。
「………いつかはさ、そんな気分も、どっかに行っちまう時が来るモンなんだからよ………そんな………ウジウジしてんなよ。折角の美人が台無しだぜ?」
そう言うと彼は恥ずかしそうに顔を赤らめ、着ていた上着を脱いでオレの肩に乗せて足早に去っていった。
その後ろ姿をぼーっとした感覚で見つめていると、何故か自然に笑みが浮かんだ。
「フ………何だそれ」
そのうち本格的に可笑しくなってきて、最後には声を漏らして笑っていた。


「ネジ………こんな事言っても困らせるだけだと思うけどよ……俺、アンタのことが好きだ」
似たような言葉は、今までに幾度と無く聞いてきたが、こんなに胸が苦しくなる事はなかった気がする。
これはどこかで感じたことのある気持ちだと少し考えると、すぐに昔の雨の中の光景だと思い当たる。
「少し待っていてくれないか」
何度も彼を見かけたが、その度に声を掛けるタイミングを逃していた。何故か彼を見かけると、胸が痛くて動けなくなるのだった。
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