文集1

□小さくて大きなモノ
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何も、喋れない状態で発見されたそうだ。
そこがどこで、どうしてそうなったのか、誰一人教えてはくれなかった。
只、彼はもう、戻って来られないのだと告げられた。
一族の者には、もう少し詳しい話があったらしいが、部外者である俺は、アイツが何故俺の傍から離れて行ってしまうのか、何も説明しては貰えなかった。
ヒナタでさえも、口を噤んでしまった。
俺にアイツにしてやれる事は何も無かった。口がきけないのだから、本人に直接確かめる事も出来ない。


俺は、本当に無力だった。


暫くして、助からない事が確定すると、俺がアイツに会う事を許された。
何事かを、ぽつりぽつりと繰り返し呟いていた。
近付いて耳を傾けると、微かに俺の名前を呼んでいるのが分かった。
手を握って話し掛けると、安心したのかやんわりと微笑んだ。
その唇にキスをすると、いつもより低い体温に、いつもと同じ香りがした。


その夜、ネジは息を引き取った。
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