文集1

□君の雨僕の傘
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並盛中学校の風紀委員長は、何を考えているのか自分でも分からない様で、傘も持たずに大雨の中を歩いていた。
その理由はぼんやりとは分からないでもないのだが、認めてやる事が何だか癪に思えたのだ。

思い詰めた様な表情で雲雀がひとり、雨に濡れ乍ら帰り道を歩いていた。
ぼんやりとしていたので、周りに人が居るとは思わなかった。ましてや 自分の背後に小さな子供がついてきているとは 思いもしなかった。

「お兄ちゃん」
声を掛けられてビクリと肩を震わせ振り返ると、黄色い合羽を着てクマの耳のついた傘を差した男の子が立っていた。
「…何」
雲雀が少しぶっきらぼうに応えると、少しも怯まずに男の子はにっこりと微笑んでいた。
「濡れちゃうから、ぼくの傘入って良いよ」
少年はそう言うと、雲雀にも傘が届く様に背伸びをした。
雲雀は暫く呆気に取られて固まっていたが、ふと 少年が誰かと重なった。
其れは、雲雀をこんな状態にまで追い遣った 先程まで雲雀の思考を支配していた人物で。
「むく…ろ……?」
その人物の名を呼ぶと、少年が照れ臭そうに少し微笑った。
「わかっちゃいました?」
そう言って雲雀を見上げてきた少年は、確かに雲雀の想い人で。
「君………今まで何処ほっつき歩いてたのさ……ッ!」
雨滴か涙か、雲雀の眼からは 少し温かい雫が零れた。
――今まで散々こんな気持ちにさせておいて、何で今更こんな所にのこのこ来るの?そんな可愛い格好して――
雲雀が散々文句を言っている間、骸はずっと傘を差していた。

「時々ならこうやって、君の傘になりますね。僕が自由になれた時には、君の雨雲を晴らしますから」


―――それまでは。


そう言って、小さなクマの耳のついた、可愛らしい傘は去って行った。
余りにも呆気無い出来事に、雲雀は呆然としていた。
黄色い合羽を着て、黄色い長靴を履いて、クマの耳のついた傘を差した可愛らしい男の子は 雲雀から雨雲を払い、何時の間にか 空にも日が覗いていた。
そして時々雨の日に、クマの耳のついた傘が 雲雀の上に降る雨を遮ってくれた。



早く雨の降らない季節が来る事を願って。






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