4

□雁夜さんと時臣さんと葵さんの話
1ページ/2ページ

雁夜は昔から魔術師というものが嫌いだった。
間桐家に生まれてしまったおかげで幼い頃からそういうものに縁があり間桐の魔術を目の当たりにしてきた雁夜には、それらを平気で操る人間などとてもではないがまともではないと思っていた。
だから遠坂時臣に出会った時もまともな人間だとは思っていなかったので、そのあまり器用ではない人間臭さに驚かされた。

その頃の雁夜には想いを寄せる女性がおり、その女性…葵から紹介されたのが時臣だった。
「君が間桐雁夜くんか。私は遠坂時臣。宜しく頼むよ」
「…、ああ、こちらこそ」
名字を聞いた時に感じたいやな予感は、時臣を一目見てから確信に変わった。コイツは正統派の魔術師だ。
雁夜が一歩引いた事に気付いた時臣は、困ったように頭を掻いた。
「そんなに身構えないでくれ。君に何か悪いことをさせようなどと考えているわけではないんだよ」
そう言った時臣が本当に困っているように見えて、意外と人付き合いが苦手な人間なのだと気付いた。
そうして雁夜がおかしそうに笑うと、時臣が傷付いた顔をしたので葵と顔を見合わせてまた笑った。
人間臭い魔術師との初対面は、あまり悪いものではなかった。


魔術師というものへの偏見が遠坂時臣への憎しみに変わったのは、きっと一方的な恋心と勝手な信頼、そして信じてしまった自分自身の愚かさの所為だろう。全てが全て遠坂時臣の所為だとは言い切れないというのに、その全てを時臣の所為にして自分自身から逃げ出そうとしている。そしてまたこの戦いを桜ちゃんの為と言いながら、自分の勝手な復讐心と伝えられなかった恋心を誤魔化している。
自分はなんて狡いのだろう。本当はこんな人間ではなかった筈なのに。それもこれも、きっと時臣の所為なのだ。そうに決まっている。
暗闇の世界の中で、自分勝手な思いを募らせる。それらを自分への戒めのためにメモ用紙に書き付ける事を、このところずっと繰り返していた。まるで小さい頃に流行った不幸の手紙のようだ。
時臣 時臣 時臣 時臣。
ずっと書き続けているうちにそれがゲシュタルト崩壊を起こして、そのまま心の内から存在自体を崩壊させてくれるように微かに祈りながら。
桜ちゃんを不幸にした罰を…葵さんを悲しませた罰を受けろ。そしてなにより、お前になら葵さんを任せられると勘違いした自分に罰を。たとえ差し違えてでも、俺はそれに報いるためにお前を殺す。

雁夜がペンを置くのに合わせて、背後に控えた英霊は音もなく立ち上がった。
蝋燭の灯りに仄かに照らされた変貌してしまった顔は、静かな怒りを湛えて揺らめいていた。
「…行くぞ、バーサーカー」
狂ってしまった戦士は、もう自分の心に嘘を吐く事でしか、前を見る術を持ってはいなかった。




end
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ