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□smart?
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「…は?異常無し?」
「ええ、どこにも。健康そのものでしたよ。良かったですね」
にっこり。お姉さんの素敵な笑顔を呆然と見つめながら、俺は診察所を後にした。
「なあトキヤ、お前ほんとどうしたの?」
後ろを歩くトキヤは無反応で、俺は大きな溜め息を吐く。途中で公園を見つけて、ベンチに腰掛け隣にトキヤを座らせる。
「トーキヤ。聞いてる?」
「……はい」
物凄くばつの悪そうな顔で足元に視線を落として、トキヤは小さく返事をした。
ここ最近の自分の行動とトキヤの態度を思い返してみる。きっと一番最初におかしくなったのは七海からのメールを教えてくれなかった時だろう。それまでは自分の使命に燃えているかのように逐一報告をくれていたのだ。そしてその少し前には二人で小さな演奏会をした。その時の楽しそうなトキヤを、俺はよく覚えている。
そして昨日のデートの約束を教えてくれなかった事だ。昨日までは調子が悪い所為なのだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしい。ということはつまり、意図的に教えてくれなかったということだ。それはなぜか。
これが人間同士の話であったなら、いくら鈍い俺でも簡単に答えが出せたであろう。しかしトキヤは俺のスマートフォンだ。素直に人間に置き換えて考えてしまっても良いものだろうか…そこまで考えてから、自分は意外とその事を嬉しく思っているということに何となく気付いてしまった。あの堅物で取っ付きにくそうなトキヤが、そんな風に思ってくれているのだとしたら。
くすりと噴き出して笑うと、トキヤが不振がって此方を見てきた。その顔と目が合って、俺は思ったことをそのままぽろりと口に出した。
「もしかして、拗ねてるの?」
「あなたはここ何日か慌ただしく過ごしていて私の存在を忘れていたり充電を怠ったり現実に夢中で私には一切見向きもしてくれませんでしたが寂しさや会いたさから怒ったり拗ねたりストライキしているわけではありません」
トキヤは暫く固まったままだったが、少し怒ったように早口気味に捲し立てた。
「…じゃあ、七海に嫉妬してくれたの」
俺がそう言うと、トキヤは最初ぽかんとした顔をしていたが、意味を理解した途端に顔を真っ赤にしてしまった。
「そっかぁ、嫉妬してくれてたんだ。へへ、なんか嬉しいなあ」
「っな、何をバカなことを…私は機械ですよ。嫉妬など」
「じゃあなんで七海のメールやデートの約束、教えてくれなかったのか理由が言えるの?」
そう言うと、トキヤは黙って俯いてしまった。
「トキヤはね、きっと俺の事が自分の存在意義以上に好きなんだよ。俺も、トキヤがだいすきだよ。もうトキヤ無しでは生きていけないくらい」
「…あなたは初めてスマートフォンを持ったから、きっとそう思い込んでしまっただけでしょう。他の便利な機械があれば、あなたはそれらすべてにきっと同じことを言う」
「そんなことない!そんなことないよトキヤ。便利さだけを言うんなら、お前みたいなめんどくさい性格のヤツ好きになんてならないもん。お前だから、トキヤだから好きなんだよ。そのめんどくさいとこも全部含めて、俺はトキヤがだいすきだよ」
そう言うと、泣き出しそうな顔をしたトキヤを思わずぎゅっと抱き締めた。トキヤは躊躇いがちに、それでもおずおずと背中に腕をまわしてくれた。それが可愛くてトキヤの頬にキスをしたら、トキヤはくすぐったそうに微笑った。
「私も、あなたが好きです、音也」

食堂でお昼を食べながら、先ほど公園であったことを翔と話した。
翔と那月は互いに顔を合わせると、俺とトキヤを交互に見た。
俺が話す間終始顔を真っ赤にしてそっぽを向いていたトキヤは、話し終わるとちらりと俺を見てきてなんだかとても可愛らしかった。
「なんだか素敵なお話ですねえ!僕たちももっともーっと仲良くなりましょうね、翔ちゃん!」
「だああひっつくな那月!俺達はもう十分だろ。…しっかしお前がそっちに行くとはなぁ…」
「そっちって?」
「お前は七海が好きなんだと思ってた」
「七海は好きだけど、七海には友近っていう最強のボディーガードが居るからなぁ…それに、七海への好きはトキヤへの好きとは違うからさ」
「そうか…ま、いいけどな、お前が幸せそうなら」
そう言って笑った翔に、なんだか嬉しくなってつられて笑った。
明日からはきっと、俺は無遅刻無欠席で過ごす事が出来るだろう。

end

12/09/05
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