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□嘘に決まってるだろ 君を好きだなんて
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「君なんてもう知りません!!」
そう言ってキレた骸がこの部屋から飛び出して行ってから、既に9日目。
いつものことと放っておいたら、今度ばかりは本当だと言わんばかりに随分と長く不在だった。いつもなら1時間もしない内に走って帰る骸にしては、歴史的な快挙であった。



キッカケは、きっといつもと同じだった。雲雀が適当にあしらって、骸が怒って飛び出す。隣近所には良い迷惑である。
しかし今回は何が違ったのか。それは、話していた内容にあった。
議題はまさに今日の事、6月9日の事であった。そう、骸の誕生日だ。
「9日は何の日か知っていますか?」
いつもよりも数倍は嬉しそうにそう問い掛ける骸に対して、
「火曜日」
と雲雀は答えたのだ。
骸はああだこうだと文句を付け、そして部屋を飛び出して行った。



雲雀はいつものように学校へ行く支度をしていた。
部屋を出て、いつもと同じ通学路を歩く。当然、普通の生徒の登校時間にはまだ随分と時間がある。
ふ、と視界に入って来たのは、見慣れないテントだった。それはよく学校行事などの時に見掛ける、先生達の席のようなやつである。
「君たち、誰の許可を取ってこんな事をしてるの。答えによっては僕がこの場で叩き潰す」
「ひゃっ アヒル?!はっえー今何時らよ?」
「犬、良いから。作戦通りにやるよ」
「へーへー」
「あの…こんにちは…」
そこにいたのは変装したつもりなのか、各々ザルや着ぐるみ、マスクにサングラスなどを付けた怪しい3人組であった。
「えーと…『最近誰かへの贈り物でお困りではないですか』」
「『そこれ、たいせつなひとへの贈り物にいかがれしょー』?」
「きっと 骸様、あなたから貰えたら、喜ぶと思うの…」
「ばっかてめー言っちゃらめっつったろ!」
「犬、もうバレてる」
雲雀は嫌そうな顔を隠しもせずに盛大に溜め息を吐き出すと、諦めたように右手を差し出した。
「で、何渡したら良い訳?」



雲雀がいつものように風紀委員の活動拠点となっている応接室で仕事をこなしていると、控え目なノックの後にひょっこりと見覚えのあるパイナップルが隙間から覗いた。
何も言わずに骸は応接室のソファに座ると、ちらりと此方を見ては視線を逸らしをわざとらしく繰り返した。
それが目障りだったので、雲雀は思い切り良く立ち上がり、ずかずかと骸の横に立った。
「あの…なんでしょう…?」
偉そうに見下す雲雀をおずおずと見上げながら骸が訊ねると、雲雀はずい、と紙袋を差し出した。
「え…あの…これは、」
「誕生日なんだろう。あんなに騒がしく訴えて来たっていうのに、要らない訳」
雲雀が窓の方に身体を向けて投げの構えをすると、骸が必死にしがみついた。
「っい、いります!いります!是非僕にプレゼントをください!!」
雲雀の手から紙袋を奪うと、骸は幸せそうに破顔一笑した。
「何、そのだらしない顔」
「だって、雲雀くんからプレゼントを貰えたんですよ。これが幸せじゃなくて何なんですか」
雲雀は少しだけ胸に刺さるものがあった気がしたが、気のせいだと思っておいた。
「……、そう。良かったね」
「クフフ…はい、良かったです」
随分と素直な骸の反応に苛立ちを覚えた雲雀は、骸の胸倉を掴むと乱暴に口付けた。
「ひ、ひば、り…くん?」
顔を真っ赤にした骸が驚いてそれだけ言うのを、雲雀はただぼんやりと見つめていた。
「いやあ…まさか君が、ここまでして下さるとは…驚きでした」
「………、どういうこと?」
骸の予想外の反応に、雲雀は頭が追い付かなかった。
「今まで僕は、あの子たちの所に泊まっていたんです。コレはあの子たちからの物でしょう?僕が散々雲雀くんからのプレゼントが欲しいと騒ぎましたからね。それが分かったので、逆に君に嫉妬して貰えないかと思ってあんな事を言ったのですが…あ、勿論君からのプレゼントなら何だって嬉しいですがね?」
「……、つまり、僕ははめられたって事?」
「はめるなんて人聞きの悪い。君に愛されている事が分かって僕は幸せです。僕も愛していますよ、恭弥」
何だか怒る気もどこかへ消え失せてしまって、雲雀は今日何度目かの盛大な溜め息を吐いた。
そして好き勝手に抱き締めて来る骸に、諦めたように言うのだった。
「おめでとう、骸」




Buon Compleanno!
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