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□寒冷前線
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どくどくどく
心臓が全身に血液を送る。
どくどくどく
それでも凍えた身体には不十分な温もりしか与えなくて、元々体温の低い身体は温度を失ってがたがたと震え始めた。
どくどくどく
苦しい辛い息が出来ない
こんな薄着をしてくるのでは無かった。
凍えた手のひらを合わせてもまるで暖まる気配なんて無かった。
日本よりも気候の涼しいこの国の冬は、日本のそれとは比べものにならないくらいに酷く冷え込んだ。
(まだ11月だった筈だけど…)
はあ と吐き出した息は真っ白で、感じた事の無い程の低気温にいい加減辟易していた。
そのとき ほんの少しだけ暖かな体温を感じて、いやな予感がして顔を上げた。
いやな予感の原因は案の定見たことのあるギザギザ頭と長い尻尾で、その事にもやっぱり溜め息が出た。ああ 体温が勿体無い。
「如何かしましたか、恭弥?」
にっこり うざったい程の笑顔を貼り付けて、六道骸がぎゅっと抱き締めて来た。
そう言えば外国人は体温が高いと聞いた事がある。身体が凍えて上手く動かなかったから、咬み殺すのは諦めた。
自分がこんな状態の時に勝てる程甘い相手では無い事くらいは理解出来ていた。
「寒くないの」
貼り付いて離れない男に迷惑さを多分に含んで訊ねると、そいつは楽しそうに笑うだけだった。
離れる気配はまるで感じられない。
「大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
冷たい風に凍えて固まった身体を包む腕に力を込めて、六道骸は微笑んでいた。
「…そう」
心の底からどうでもいいという気持ちを込めて2文字を吐き出す。
其れにも怯む事無くにこにこと抱き締める。
いい加減に離れて行って欲しかった。
「それより、恭弥が寒そうです。大丈夫ですか?」
心配そうに顔を伺われて、一瞬惚けてしまった。
冷たい空気に長時間曝され続けていた頬は寒さで朱が乗っていたけれど、それ以上にその突然の事に熱を感じた。
「………大丈夫だよ」
大丈夫。
君の総ての熱を奪ってしまったかの様に、一瞬で熱を取り戻してしまったから。
暖かくなった顔を冷たい手のひらで押えると、丁度良く手が温まった。




end
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