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□幸せ家族計画
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誰も居ない、部屋へと帰る。
くらい我が家を見上げ、寒い部屋の扉を開ける。
1人で住むには広すぎる一軒家の灯りを点けると、冷たい廊下を歩く。
大きなベッドに腰掛けると、窮屈なスーツを脱いだ。
部屋着に着替えてスーツを仕舞うと、突然倦怠感が襲った。
(動きたくない…ていうか動けない)
何からの疲れなのだか判然としなかったのだが、確かに空腹感はあったのでどうしたものかと思案した。
(…取り敢えず、掃除しなきゃ…それから、ご飯…)
怠ける身体を叱咤して、起き上がって掃除機を取りに向かった。
かちりと電源を入れると、細かな埃を吸い込み始めた。
大体の掃除を終えると、掃除機を戻してキッチンへ向かった。
今日はハンバーグを作ろうと決めていた。昨日の内に材料も用意してあったので、あとは取り掛かるだけだった。
重たい四肢を動かして、気だるげに作り始める。
出来たものを2人分の皿に取り分けると、全てをテーブルに並べた。
そこで漸く息を吐くと、休みたがる身体を椅子に落ち着けた。
(………今日で、丁度1週間…)
普段あまり日付等気にしない自分が、珍しくそらで覚えている。
毎日毎日気を紛らわせようと周りが怖がる程に力を入れて書類を片付け、身体がくたくたになるまでわざわざ疲れさせて。
そんな生活を、もう1週間続けていた。
(僕は、疲れてなんてない。大丈夫、大丈夫…)
いつものように、1時間後に食べ始める。やっぱり、随分と冷めてしまっていた。

大丈夫。

自己暗示を掛けて、色んな事に紛れさせる。
静か過ぎて、空気の音が逆に騒がしくて気持ちが悪い。
あの低く響く声を聞きたくて、もう何度幻聴を聞いた事か。
ざわざわと鳴る風の音を、幾度も自分を呼ぶ声と聞き間違えた。
そのたびにびくりと身体を強張らせては、大丈夫、大丈夫と言い聞かせた。
大丈夫な事なんて、何もなかったのに。


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