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□孤独な人間は、この世で最も強い(イプセン)
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物足りない。
何かが足りない。
何もかもを手に入れたのに、あとひとつ 何かが足りない。

…ああ そうか。

僕が手に入れてしまったから、それは壊れてしまったのだと
僕は今更気付いてしまった。



「ねえ雲雀くん、覚えていますか」
皮肉な程に晴れ渡った、とある金曜日。
「……何を」
空には鳥が飛び交い、白い雲があおを彩る。
「僕達が、初めて出会った時の話です」
孤独な雲がひとつ、山に掛かって霧に変わった。
「……よく、覚えてるよ」
昨日の天気予報は、雨。
「君はとても魅力的で、とても美しかった…」
嘘つきに振り回されて、かさばる荷物がひとつ増えた。
「相変わらず、君は気持ちの悪い事を言うね」
校庭では、野球部らしき元気な声。
「僕はあの時から、君が欲しくて堪らなかった…」
やかましい喧騒に包まれた、夕陽射す午後の応接室。
「…何が言いたいの」
「別れましょう」
凛と響いた綺麗な声音に、部屋の主はびくりと震えた。
どくどくどくと、心臓は早鐘を打つ。
「…何、で…」
「君は弱くなってしまいました。それもこれも、全て僕の所為なんです。ごめんなさい、別れましょう」
いつもと変わらない日常。
変わらない部屋に、変わらない顔。
笑顔が無表情の男。
「………な…んで…」
「クフフ…そんなに僕の事が好きなんですか?本当に、弱くなりましたね」
そらはあおくて、くもはしろくて、笑顔の男はあおくて、泣き顔の男はしろくて。
それは良く晴れた日の金曜日。
天気予報は雨で、空は晴れ渡った日。



ひとりでいたいと嫌がる君を
無理矢理2人に僕がした。

美しいものはいずれ色褪せ灰になるなら
いっそ僕の手で汚してしまいたいと願う。
それは僕のわがままでしょうか
君を汚すのは僕であればと願う
この純粋な感情は。

君はとても強くて
君はとても輝いていた
そんな君を手に入れたくて
強い君を殺してしまった。

ごめんなさい
君を弱くしたのは 僕。




end
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