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□3月病もあるかも知れない。
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今年は色んな事があったものだ、としみじみと思い返している現在は3月某日。
卒業式も終わり後は春休みを心待ちにするのみの、この間球技大会の終わったばかりという平和な日常だ。…まあ、宇宙人の犬乗っ取り事件なんていう非日常的出来事もあった事はあったが、妙な空間に閉じ込められた挙げ句何とも知れない洋館にて遭難、なんて事件よりはよっぽど平和だった。
まあそんな事はさておいて、午前授業で今まで以上の暇を持て余していた俺達SOS団の面々は、普段からの習慣からこの部室棟の文芸部室に特に用事も無く集まっていた。そう、俺が今年を振り返る余裕のある程に平和なのである。何故なら団長殿はよくわからない用事で外出中であったからだ。何事かを叫んでいた気がしないでもなかったが、まあいずれ嫌でも俺達の耳に入る事になるのだろうから今は別段気に留めないでおく事にして、この朝比奈さん特製のお茶を啜りつつ古泉の将棋の相手でもして暇を潰す事にしようとのんびり構えているのであった。
それにしてもこんなにも平和でいると、去年末までのゴタゴタが嘘の様だ。流石は猫も走る程に忙しいという師走である。今のは分かる人だけ分かって欲しい。
まあそんなわけで振り返っていた
のだが、やっぱり変わったなあ、と思わざるを得ないというのが第一の感想であった。
ハルヒなんて特に最初の頃からは比べ物にならない程に明るく(というのも変か?)なったし、朝比奈さんは最初よりもうんと頼もしくなった、と思う。個人的にな。長門も表情が出て来たし(俺の眼力が進化したとも言えるな)、俺も多分、このゴタゴタを楽しいと思える位にはSOS団に溶け込めるようになったのだ。そして、今目の前で少し考える仕草をしながら飛車を妙な方向へ動かした古泉だって、きっと変わったのだ。俺は少し前に相変わらずだ、なんて言った憶えがあったが、やっぱりこいつも変わったと思う。最初の頃は、どこかぎこちなく 部外者面をしていた印象があったが、今では立派なSOS団副団長だ。SOS団が立派かどうかはこの際置いておく事にして。
先程古泉がまるで取ってくれとでも言う様な位置に動かした飛車を望み通りに取り除いてやりながら、俺は思った事をそのまま口にした。
「お前も随分変わったよなあ」
何とはなしにそう言ったつもりだったのだが、古泉は予想外に間抜けな表情で固まってしまった。
何かマズい事でも言ったんだろうか?
「あ……いえ、そうではなくて…意表を突かれまして、びっく
りしていたんです」
「そんなに驚くような事か?」
逆に俺の方が驚いたくらいだ。
それから古泉は考えるような顔を作ってから、つい、と俺を見た。
「自分では、そのような変化には案外気が付かないものなのですよ。それは時間的には急激な変化でも、自分の中では当たり前に移り変わって行くものですから、変わる前へと思考を戻さなければ気付けないものです。例えば、そうですね 話が盛り上がって続けざまに話題が変化して、『そういえば何故この話題になったんだろう』という疑問が出て初めて気付くようなものですかね」
お前の例えは相変わらず分かりにくいぞ。別にもう一度説明しろとは言わんがな。
漸く再開された盤上を見ると、将棋の分からない人間にも分かりやすいくらいの古泉の劣勢ぶりが見えた。うーん、こんな事なら賭けときゃ良かったかな。
古泉はと見ると、やっぱり何時もの如くのハンサムスマイルでニコニコニコニコと俺を見てきやがった。何だよ気色悪いな。
「いえ、人は恋をすると変わる、という話を思い出したものですから」
……なんつー恥ずかしい事を言いやがるんだ、この男は。
「嬉しい事です、好きな人には多少の変化も気付いて欲しいものですからね」
それはあ
れか、髪型変えたの、これどーぉ?みたいなやつか。言わずもがな分かって欲しいとかいうあれか。この場合はちょっと違わないか?無自覚なんだし。
「まあ、それもそうですね。それでも、僕は嬉しかったので良いんですよ」
「そーかい」
俺が王手をかけてやると、古泉は笑顔を崩さないまま両手を広げて肩を竦めた。
「嬉しかったついでですから、今日は僕が何か奢らせてもらいますよ。何が良いですか?」
他人の金で飯を食うのは大歓迎だ。俺がメニューを告げると、古泉も楽しそうに頷いた。
「とびきりの店にご案内致しますよ」
さて、母親にメールでも入れてやろうか。晩飯を確保した俺は上機嫌で携帯を開いた。
古泉も相変わらず人畜無害スマイルで、俺に近付いて耳元で言った。
「宜しければ、今夜は泊まって行かれますか?」
こっ恥ずかしい事を言うんじゃないこの変態超能力者が!
俺がばしんと古泉の肩を叩くのと、ハルヒの到着するのはほぼ同時くらいだった。
だから、
「キョン、あんた何顔赤くしてんのよ」
なんて言われて 俺は物凄く焦る羽目になってしまった。
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