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□沢田綱吉の災難
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「…あのさ。お願いだから、この部屋から出てってくれないかなあ…気が散って仕方ないんだけど」
「オラてめぇ、10代目がこう仰られてんだ!とっとと失せやがれ!」
「…君もだよ、獄寺くん」
はあ、と盛大な溜め息を吐いても、そいつは一向に意に介さなかったようで、やっぱりそこに居座り続けた。
「なんですかボスともあろう者が。部下の不安を取り除くのもボスの務めじゃないんですか」
「個人的な事で不安になってる人間の事まで構ってたらオレの身が保たないだろ。取り敢えず出ていけ」
「嫌です。…今逢いたくないんです」
ああもう鬱陶しいな。
どうやら(何時の間にか公認になってしまった)恋人である雲雀さんと喧嘩だかなんだかをしたらしく、骸はその雲雀さんを避ける為にここに来て、ついでに愚痴って来たのだ。オレにとってはとんでもなく迷惑この上ないのだが。
「わざわざここじゃなくても良いだろ!?この書類今日中なんだよ!終わらなきゃオレリボーンに殺される!」
「あなたの事情なんて知ったこっちゃありません!」
取り敢えず怒ってみたら逆ギレされた。…理不尽だ。オレ、間違った事言ったか?誰だって痴話喧嘩になんて巻き込まれたく無いと思うのだけど。
「てめぇ、10代目に失礼だぞ!」
「獄寺隼人、君は黙っていて下さい」
ああもう、誰かなんとかしてくれ…
オレの願いが届いたのか、扉をノックする音が聞こえた。
「是非入って」
「失礼しまーす」
がちゃりと開かれた扉から顔を出したのは、ボンゴレの雨の守護者だった。これで本当にこの事態を収拾出来れば、山本は本当の意味で雨の守護者だと思う。まあ、更に掻き回すのが本来の山本なんだから、そんな事が出来るとは思って無いんだけど。
「山本ぉ、なんとかしてよこれ…」
それでも、取り敢えず助けを求めておく。オレ1人よりは十分頼もしい。
でもまあ、そこはそれ、山本だから。
「ははっ、何か楽しそうなのな。何の話してんだ?」
地雷を思い切り、もういっそ清々しいくらいに元気に踏んづけた。うん、流石山本。処理するのはオレなんだからもう少し考えて。お願いだから。
「聞いて下さいよもう雲雀くんたらヒドいんですよっ?!」
ほら、始まった。
「それは良いからとっとと出ていけ」
「嫌ですよ 今は雲雀くんに逢いたくないんですもん」
“もん”じゃねえ。
「ここじゃなくても良いだろってさっきも言ったよな?そして山本が聞いてくれるっぽいから山本連れてどっか他に行け」
「えー、俺はその手の話題はパスしてーなあ」
分かってて聞いたんじゃ無いのか?
「あーもう、仕方無い…雲雀さん呼ぶか」
「それは僕に対する嫌がらせですか?!」
「今お前がここに居る事がオレにとっては十分な嫌がらせだ」
「ははっ、ツナもキツいなー」
「うるせー野球バカ!10代目の仰る事は全て正しいんだ!」
あーうるさい。いつになったらオレは書類整理を再開出来るんだろう…
決して広くはない部屋に大の大人が4人という状況は十分に暑苦しい。無視して作業を進めても良いだろうか。
「ボンゴレぇ〜」
非常に情けない声が扉の向こうから聞こえて来て、俺はまた厄介事がやって来た…と感じた。超直感じゃなくてもこれは誰だって分かるだろう。
「何、ランボ?」
オレが入室を促すと、骸が鬱陶しく噛み付いた。
「何で僕の時はあんなに渋っていたのに彼は直ぐに通すんです?!」
「お前は大人気ないから黙ってなさい。で、何 ランボ」
「オレが歩いていただけで、後ろから雲の守護者に殴られたんですぅ〜っ」
「骸、絶対お前が原因だろう。謝れ」
「大丈夫かランボ?」
ランボには優しい獄寺くんが撫でてやっているランボは、いつものようにぼろぼろと大粒の涙を零していた。
骸はというと、「僕は悪くありません」と白々しく無関係を装っていた。
「雲雀さんは普段は歩いてるだけでは殴ったりしないよ。群れなら兎も角ランボは1人だ。雲雀さんの機嫌を取ってこい」
「嫌です」
「命令だ。ボスは命令を下すのが仕事。部下の不安を取り除くのが仕事。ランボの不安を取り除くのは、お前にしか出来ないお前の仕事」
ムスッとした顔を作った骸を睨み付けていると、新たな訪問者を告げるノックの音が聞こえた。
「誰ですか」
「僕だよ 沢田」
漸く渦中の人物の登場だ。オレは思い切り溜め息を吐くと、入って下さい と返事をした。
がちゃりと音がして、ランボがびくりと肩を震わせた。
「ワォ、何だいこれ。僕は君に用事があったんだけど」
「丁度良かったです。オレも、正確には骸が雲雀さんに用事があったんです」
「僕は用事は無いよ」
「僕は命令を受けました。君に用事があります」
じい、と睨み合う2人を、おれたちは大人しく見守った。
暫くそのまま睨み合っていたが、やがて骸が身体をぺたんと半分に折り曲げた。
「……すみませんでした」
それには流石の雲雀さんも驚いたようで、暫くきょとんとした後でフンと鼻を鳴らした。オレが睨むと、肩を竦めた。
「僕も、悪かったよ」
今度は周りが驚いた。おぉ と言って固まった周りを無視して、2人の世界へと入って行く…
「君があまりにも可愛い顔で枕なんて抱いているから、ついカッとなってしまって…」
「あ!あれ、は…てっきり、君かと思って…それにしては柔らかいとは思ったんだけど……」
聞いていて恥ずかしくなる会話だな。ていうかここでしないでくれ。ほらそこ、顔赤らめてないで出てってくれ。頼むから仕事をさせてくれ…!
「だああー!!もう!!のろけは自分達の部屋でしてくれ!!」
つられて顔を赤くした獄寺くんがハッとしてオレを見たり、山本は楽しそうに2人を見てたり、ランボは泣きながら2人を見てたり…本当にもう、今日も平和だな…!!


勿論、オレがリボーンにしごかれたのは言うまでも無い。
違うんだよ聞いてくれ、絶対オレの所為じゃないから!!




end
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