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□詐欺師のやさしさ
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僕はとてつもなく気分が悪かった。
目の前に、それも僕の上に彼が居て、失礼かもしれないけれど吐き気がした。失礼なのは彼の方でもあったから、彼の目の前で僕は思い切り顔を歪めた。
そうだ、僕は騙されたのだ。だから今、こんな事になっているんだ。騙されたから僕は気分が悪いのだ。先程口にした甘ったるい飴玉が多少熱で溶けていた所為では決して無い。腹痛がする気がするのも気の所為だ、きっと。

「君を見ると気分が悪くなるね。君がわらってもおこってもないてもくるしんでも、つくりものを見ている気分だ」

君に言われたくはない、とか そもそもそう言うならこの状況は無いだろう、とか 言いたい事は沢山あったけれど、僕はひどく衝撃を受けて何も言う事が出来なかった。なんという傲慢を言うのだろう。僕の総てを否定されて、僕は呆気に取られてしまった。
そうする間に彼が僕への悪戯を再開するので、僕は怒るタイミングを逃してしまった。彼の言うつくりものの怒りさえも表現する間も無かった。

僕は騙されたのだ。彼の子供のような言動に。彼の総てに。きっと、未だに誰もが騙され続けているに違いない。
だって、そうとしか思えない。あんな出会い方をした僕らなのに、君は何とも詐欺師の様に優しかった。きみがわるい、と始めに気付くべきだった。何故だろう、と疑問を抱くべきだったのだ。
そんな筈がないのに。今まで幾度だってそんな甘い言葉を聞いてきたというのに。そんなばかな事がある筈が無いと嘲笑われたって、言い訳の仕様がない。

「どうしたの、黙り込んで 気持ち悪いな」

きっとこの目の腫れぼったいのだって、昨日のフランダースの犬の所為なんだ。夜中に犬に付き合って最終回を見てしまった所為なんだ。
迎えに来てくれたの、なんて。きっと僕のさいごに隣に居るのは僕の忠犬では無く彼なんだろうけれど。
さいごまで騙され続ける僕のなんと憐れな事だろう。
この目から落ちるものは、思い出し涙だから、君が気にする事は何一つだってありはしないのですよ。

「ねえ、むくろ、怒ったの?」

く、はは。今更怒るも何も無いでしょう?
どうせ、僕の総てはつくりものなのですから。
僕のあたまは報われない何もかもを引き摺って、くるりくるりとふかいやみへと堕ちてゆくのです。




end
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