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□ハミングバード
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「いやだいやだいやだ、死なないで、ロックオン、ロックオン…!」

そんな声が遠くから聞こえてきて、俺は意識を取り戻した。
ぱちり。
目を開くと、そこにはびっくりするような人物が居て俺は物凄く驚いた。寧ろその所為で血圧がおかしくなりそうだ。
何せ、その予想外の人物がぼろぼろと涙を零していたのだから。
「お前も泣いたりするんだなあ、ティエリア」
「…っ、ロック、オン…!」
上手く動いてくれない左手をゆっくりティエリアの目尻へ伸ばして、次々に零れる雫を拭ってやった。
「ごめんな、ティエリア。心配、してくれたんだよなあ?」
「…っあなたは…あなたは馬鹿だ」
左に顔を傾けて、ティエリアの顔をちゃんと見る。
何時もの無表情とは違って、今は凄く人間くさい顔をしていた。それがどうにも可愛くて愛しくて。抱き締めてやりたかったんだけど、身体は上手く動かなかった。何より、右目が見えないという違和感は如何しようもなく俺を不安にさせた。
「…何故、こんな事になると分かっていて、僕を助けたんですか…」
「…なんでだろうな?お前の言うように、俺がバカだからじゃないか?」
「答えに、なっていません…」
そこで、漸く俺は気が付いた。
そうか、俺はコイツを助けて、同時にコイツを傷付けてしまったのだ。
あの時、もしも俺が死んでいたら、きっと俺はコイツの心に一生消えない深い傷を負わせる事になっていたのかもしれない。
「…ごめんな、ティエリア。俺、あの時は夢中で。お前が危ないと思ったら、動かずには居られなくて…お前の事を、傷付けたのかもしれないな」
「そんな、事…っ。傷、付いたのは…あなたの方でしょう…」
「お前の事が好きだから、せめてああいう時には、助けてやりたかったんだ」
「…あなたは、ずるい…いつもそうして笑って、俺をおかしな気分にさせる…」
「そうだよ、俺はずるいんだ。きっとこれだって、お前の気を引く為の演技かもしれないんだからな。まあ、こんな事でお前の気が引けたなら、俺の演技力もたいしたものだな」
そう言って笑ったら、突然ティエリアの顔が近付いて来た。
なんだなんだと思う間に、右目の眼帯に何かが触れた。
それがティエリアの唇だと解るのに、たいして時間は掛からなかった。

「代わりに…今度は俺が、あなたを守ります」
だから、それまでは俺が、あなたのそばにずっといます。

心臓が、止まるかと思った。
どくどくと鳴る鼓動が激しくて、直に耳に聞こえてきた。
「そ、れは…プロポーズと取って良いのかな?」
俺がそう言うと、ティエリアは彼のその瞳の様に頬を真っ赤に染めてしまった。
「や、あ、の…っ!ち、違います!勘違いしないで下さい!」
「可愛いなあ、ティエリア」
「お、俺は男ですっ!」
「知ってるよ。なあ、もう1回、今度は唇にキスしてくれないか?そしたら俺、治ると思うんだ」
「…そんなの、迷信です」
「拗ねるなってば」
躊躇う様に視線をさ迷わせてから、ゆっくりと顔を近付けてくれた。
そのままティエリアの頭を右手で軽くおさえながら、口腔を貪る様に舌を動かした。
「っんン、ふ…ぁ」
暫くしてから唇を離すと、ティエリアが苦しげに息を漏らした。
「うん、元気出た」
「嘘ばっかり」
「本当だって」
不意にクスリと空気の漏れる音がして、釣られるようにして俺も笑った。
「ヤメルトキモスコヤカナルトキモ、だったか?」
「何ですか、それ?」
「結婚する時の祝詞。宣誓?」
「けっ……」
「姉さんの時、聞き流してたからなあ…まあ、これからもずっと、死ぬまで、宜しくな、ティエリア。愛してる」
「あ、あなたは…そういう恥ずかしい事、サラッと言わないで下さい…」
「右がだめなら左で、お前の敵を狙い撃つよ」
「心配しなくても、僕があなたの右目になります」
「おう、信頼してるよ」


だからどうか、おれの所為で、罪の意識を感じないで下さい、いとしいひと。




end
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