3

□神の子は罪の果実を求め
1ページ/2ページ

いくら謝ったって足りないくらい、俺は酷い人間だ。
支えを無くしてぼろぼろになって、立っているのもやっとのとても大切なひとに、俺はなんにもしてやれないんだから。
はじめての感情にどんどん流されて、どうして良いかわからないのだろう。綺麗な顔が、可哀想なくらいにぼろぼろに崩れていた。
俺に助けを求めているのに、俺は助けてやれないんだ。俺が助けてしまっては、再び同じように大切な人を傷つけてしまうから。今度はきっと、今以上に。
それだけ、彼にとってあの存在がどれほど大きかったのかが窺える。
だからこそ、余計に支えてはやれなかった。
俺は10年前の、あの銃を握った瞬間から、復讐の為に生きる道を選んだのだから。
彼にとって支えとは、それの為に生きる事と同じなのだ。俺に…俺達に、明日の保証なんてかけらも無いのだから、俺に支えてやる資格は無い。…彼の神でさえこうなのだから、保証なんて言葉では片付けられないけれど。
…せめて、その涙の途切れるまでは、一緒にいてやるから。
今まで泣くなんて人間くさい事、一度だって俺達の前ではした事なんて無かったのに。
多分、この所色々ありすぎて、その中で少しずつ、人間らしさを覚えて来たんだろう。
「たくさん、たくさん泣けば良い。だって、俺達は泣きながら生まれて来たんだから」
良い傾向だ、と思う。今まで堅い表情しか見せた事の無かった彼が、こんなにも顔を崩して幼い子供の様に泣いているのだ。今までのあの堅さは、もしかしたら彼の虚勢で、本当の彼はこんなに幼く弱かったのかもしれない。
「……ごめんな、気付いてやれなくて。もっと早くに気付いていたら、こんな事にはならなかっただろうに」
「っ、いえ…私が、いけなかったんです…だから、あなたに、こんな…!」
「そんなに自分を責めるなって…俺は生きてるんだから」
こんなに幼い子なのに、温かさを知らずに、冷たい支えに縋って生きるしか無かったなんて。人間がどんなものか、それすら教えられずに育ったなんて。
そんなティエリアがこんなにも変わったというのに、俺は少しも変われやしない。少しも前進していない。…きっと、あの時から。
「ごめん、ごめんな ティエリア…」
頭を撫でてやる事しか…抱き締める事しか出来なくて。
「これは、私の我が儘です…から、あなたは、気に病まないで…」
震えの止まらない瞼に唇を落として、抱き締める腕に力を入れた。それだけで、愛しいひとは更に身体を預けて来た。
逃げてばかりでごめんな。何も変わらない事を知っててそれに必死にしがみついて、そこから動きたくないのは俺のエゴなのに。それのために突き放してるのに、こんな態度で余計混乱させて偽善ぶって。ズルい事をして引き留めようとして。わかってはいるんだけど、
「お前の事が、好きでごめんな」
離したくない、他人に渡したくない、なんて。本当にどうしようもない。
大事にしたいから突き放すなんて、本当は言い訳に過ぎないのかもしれないのに。そんなの俺の自惚れなのかもしれないのに。今この瞬間、悲しい顔で泣いている大事な人を、救ってやらないなんて…。
「…っ、ロック、オン…!」
ああ、そんなせつない声で名前を呼ばないで
今にも決心が揺らいでしまう 俺にはそれしか無い筈なのに。


「今度は、私が あなたを守る、から…」

だから、泣かないで…


ずきり。
心臓が酷く痛むのは、きっとどうしようもない自分の心を見透かされたから
(俺は、お前の気持ちには、かけらも応えられない、のに)




end
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ